Thursday, November 26, 2009

Safety Valve

先週末のエントリーに書いたとおり、これまで実施された中で人類史上最大のcarbon marketであるEU-ETSでは、credit価格のvolatility(変動性)が大きな問題となっている。このことは、アメリカの専門家の間でも当然認識されており、現在、上院で審議中の環境・エネルギー法案(Kerry-Boxer法案)に盛り込まれているcap-and-trade制度には、emission allowanceの価格にfloor(下限)とceiling(上限)を設ける仕組みがbuilt-inされている(詳細こちら)。その仕組み自体を不安視する向きがあるという話も、以前、このblogで書いた(こちら)。

スウェーデンの電力業界お抱えのElforskという研究機関が、昨年(2008年)10月、このvolatilityの問題を扱った“Managing Cost Variability in Emission Allowance Markets”というペーパーを出している。なかなかきれいにまとまった論文だったので、以下、そのポイントを。

曰く、目下、検討されている、価格変動軽減のための方策には、主に、以下の6つのものがある。最初の二つは、直接的に価格変動を抑えるものではないが、価格を抑えることによって、間接的に価格変動を抑えようという仕組み。残りの4つは、価格変動そのものを直接的に抑えることを目的とした仕組みである。

Offsets: cap-and-tradeでカバーされていない発生源からの温室効果ガス(GHG)の排出削減活動に対して、削減されたGHGの量に見合ったcredit(allowanceの代替品)を発行する仕組み。市場全体で見れば、allowance及びcreditの総供給量を増やし、allowance価格を引き下げる効果を持つ。Kyoto Mechanism下のCDM(クリーン開発メカニズム)がその代表例であるが、理論的には、必ずしも、国外で行われる活動に対象を限定する必要はない(現に、K-B法案は、アメリカ国内での活動にもoffset creditsの発行を認めるとしている。)

Investments: 省エネ促進のための投資がallowanceの需給を緩め、価格の低減に貢献するというお話。

Banking and Borrowing: 次(以降)の約束期間へのallowanceのcarrying over(Banking)及び/又は前借り(Borrowing)を認める仕組み。経済的には、①GHG排出抑制投資の長期的視点から見た最適化、②価格変動の安定化(∵排出抑制コストの長期期待に見合った値動き)、といったポジティブな効果を持つ。Bankingは、cap-and-trade制度の継続要望を高める政治的効果を伴うが、Borrowingは、そのまったく逆向きの効果を伴ってしまう。

Private Sector Instruments: 政府が対応するまでもなく、市場自ら、価格変動に対応するための金融商品(先物、オプション取引、etc.)を生み出すのではないかというお話。実際、EU-ETSとRGGIについては、先物取引が既に行われている。(※ このペーパーでは言及されていないが、EU-ETSについては、オプション取引も行われていたように思う。)

Carbon Market Efficiency Board: 通貨市場における中央銀行に当たる機関を創設し、同機関に、一定の範囲内でallowanceの供給量を調整する権限を与え、市場の価格安定の任に当らせるとする仕組み。2008年のLieberman-Warner法案で提案されていた。

Quantity-Limited Allowance Reserve: allowanceの価格が、あらかじめ設定された上限値(ceiling)を越えたときに、allowance reserveから、allowanceを自動的に放出する仕組み。allowance reserveについては、通常のプロセスの中でallocateされるallowanceとは別に、一定量を確保しておくとする方法や、将来の約束期間から“borrowing”してくる方法が考えられている。

Safety Valve: allowance価格がceilingに達した場合には、量的な制限を設けずに追加的allowanceの放出を行うとする仕組み。

以上の整理を示した上で、このペーパー自体は、Safety Valveに、ceilingだけでなく、floor(価格の下限値)も設けることによるSymmetric Cost Managementを推奨している。floorの導入により、single-sided safety valveの持つ欠点(①民間の投資計画に狂いを生じさせる点、②スキーム全体の排出削減量を減ずる点)が補われ、以下のような結果が期待される、とする。

 以下、感想。

1. Symmetric Cost Managementについてのシミュレーション(その結果が上の棒グラフ)では、①価格変動は正規分布に従うことと、②ceilingとfloorは価格の期待値から等距離(1 s.d.)に設定されることが前提とされており、その前提が狂えば、当然、上のような美しい結果は導かれない。近似的にでさえ、そのような前提が成立すると言えるのか?

2. このペーパーでは、Carbon Market Efficiency Board、Quantity-Limited Allowance Reserve、Safety Valveという3制度間での優劣比較はなされていない。それぞれ、どういったpro-conがあるのか?

3. 何らかの商品の市場において、価格変動幅を一定の範囲内に収める試みが実施されたことはあるのだろうか。また、実際には導入されないまでも、通貨市場におけるceiling及びfloorの設定が議論されたことはあるのではないかと察するのだが、あるとすれば、そこからはどういったimplecationが得られたのか。更に、固定相場制は、この制度を究極的に強めた形とも言えるように思うのだが、同制度の経験から得られるimplecationとは何か。
my room, Washington DC, Nov 26, 9:04

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