Tuesday, March 2, 2010

prep for Friday panel

今週の金曜日、とある授業にゲストスピーカー(?)としてお招きいただくことになった。お題は、「ガーナでのCDM promotion experienceから学んだこと(仮)」。この記事この記事を元ネタにしゃべろうとは思うのだが、10分という与えられた時間で話すには長すぎる ― というか、もともと、organizedされた文章というには程遠い ― ので、パワポづくりに着手する前に、今一度、文章ベースでまとめ直しておこうかと。テーマは、「なぜ低開発国でのCDM実施は難しいか」。

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そもそも、CDMというのは、何らかの事業(project)と一体となって、行われるものである。事業をするには当然ながら、金が要る。資金がショートすれば、それがどんなに「良い」事業であっても ― ここでいちいち「良い」の尺度を検証することはしないが ―、実施・継続することは不可能。これが大前提。

俗に「CDM事業(CDM projects)」と呼ばれるものをファイナンスの面から考える際には、“Conventional Project”と、(狭義の)“CDM Project”(あるいは、“additional CDM-specific component”)に分けて考えるのが有効である(UNEP(2007) “Guidebook to Financing CDM Projects”)。“Conventional Project”は、いうなれば「事業そのもの」。たとえば、風力発電のCDM事業(広義)を実施するのであれば、「風車による発電事業を計画し、風車を建て、その風車を実際に運用する」というのが、“Conventional Project”に当たる。これに対し、「諸々の手続きを経て、当該プロジェクトをUNFCCC事務局のCDM委員会に登録(registration)し、Carbon Creditsを販売し、monitoring、verificationを経て、CER(Carbon Emission Reduction。いわゆる「排出権」)を発行する」という一連のプロセスが、狭義の“CDM Project”、あるいは“additional CDM-specific component”に当たる。これを図にしたものが下図。(UNEP(2007) “Guidebook to Financing CDM Projects” p.52) 
Conventional Projectと(狭義の)CDM Projectは、それぞれに、費用と収益を生む。最初に掲げた“大前提”に照らして考えると、事業を実施・継続するためには、
{Conventional Projectの収益+(狭義の)CDM Projectの収益}-{Conventional Projectの費用+(狭義の)CDM Projectの費用}≧ 0
でなければならない。これを「条件A」とする。

もちろん、左辺がネガティブとなった場合に、NGOその他の団体が、損失を補填することも可能ではあるが、もしそのNGOが、(Conventional Projectの規模から見て)潤沢と言える資金力を持っているのであれば、最初からCDM revenueには頼らず、Conventional Projectだけを行えばいい。当該プロジェクトでCDMの利用が検討・模索されている時点で、そこまでの資金力はないものと想定できる。(多少のマイナスであれば補うことは出来るかも知れないが。)

なお、ODA資金のCDMへの流用(diversion)は、COP7(2001)での決定事項(いわゆる“マラケシュ合意”)の一つ、Decision -/CP.7 Modalities and procedures for a clean development mechanism
as defined in Article 12 of the Kyoto Protocolの前文で、以下の通り、禁止されている。
Emphasizing that public funding for clean development mechanism projects from Parties in Annex I is not to result in the diversion of official development assistance and is to be separate from and not counted towards the financial obligations of Parties included in Annex I,
次にキーになってくるのが、京都議定書第12条5(c):

5. Emission reductions resulting from each project activity shall be certified by operational entities to be designated by the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol, on the basis of:
(c) Reductions in emissions that are additional to any that would occur in the absence of the certified project activity. 
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5 事業活動から生ずる排出削減量は、次のことを基礎として、この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が指定する運営組織によって認証される。
(c) 認証された事業活動がない場合に生ずる排出量の削減に追加的に生ずるもの

 (京都議定書 原文和訳

の定める、「additionality(追加性)」基準。非常に難解な規定であるが、話を事業収益の部分に絞ると、
Conventional Projectの収益-Conventional Projectの費用<0
でなければCDMとしては認めないということを言っていると解してよい。これを「条件B」とする。

条件A及びBを踏まえると、“成功するCDM”の条件は、
  1. Conventional Project部分の赤字幅が小さいこと(ただし黒字であってはいけない)
  2. (狭義の)CDM Project部分の黒字幅が大きいこと
の二つ。

1.を満たす案件=「ギリギリ赤字」案件になるかどうかは、多分に、個々の案件の個別事情に依っており、そのような案件の見つかりやすさと、ある国の発展度合いには、あまり大きな相関はないのではないかと想定される。

一方、2.については、一定の相関が認められる可能性が高い。というのも、(狭義の)CDM Projectは、固定費用(fixed cost)が大きく、限界費用(marginal cost)が逓増しにくいビジネス。このことは、CDMの登録及びCERの発行に伴う手続きが非常にcost-consumingであること、その反面、コストの総額は、主に関連する施設数・事業所数に連動するのであって、削減総量との相関は比較的薄いという事実から、推量できる。

ということは、一か所で大量の温室効果ガス(GHG)を削減できる事業こそが、2.の条件を満たすということ。その代表選手は、化学工場でのHFC又はN2Oの排出削減事業ということになるが、そういった案件は、中印墨伯などの中進国に集中していて、低開発国にはほとんどない。また、エネルギー転換(Fossil fuel switch)や省エネ(Energy Efficiency)などのCDM事業も、事業実施前に、それなりの量のGHGを排出していてはじめて、それなりの量のGHGを「削減」できるのであって、もともとそのような大量排出施設を持たない低開発国にとっては、これらで攻めるというのもなかなか苦しい。

実際、ガーナでインターンをしていたときには、「“three-stone stove”を、近代的な窯に置き換える事業を、CDMでファイナンスできないか?」といった話もあった。確かに、料理用の加熱設備を近代化することで、燃焼効率が上がり、薪材の使用量が減れば、GHGの排出削減に貢献するであろうことは、理論的には理解できる。しかし、もしこの案件に、CDMを適用しようとすれば、Conventional Projectの赤字を補うどころか、(狭義の)CDM Project単体で赤字を計上するはめになってしまうだろう。要するに、減らせるGHGの量(及びそれに比例して発行されるCERの量、ひいては、その売却益)に比して、手続きに手間とお金がかかり過ぎるのだ。

stoveの話は、やや極端な例であるにしても、ガーナくらいの発展度合いの国で、上記2.の条件に照らして十分な排出規模(=排出削減ポテンシャル)を持つ案件を見つけ出すことは容易でない。ここに、低開発国でのCDMの実施が難しい、最大の原因があるように思う。

加えて、リスクの問題もある。当然ながら、Conventional Project自体も事業リスクをはらむわけだが、それに加えて、(狭義の)CDM Projectも、それ独自のリスクを有している。具体的に挙げれば、登録(registration)に伴うリスク(=何らかの理由により、手続きでつまずき、CDMとして認められない)、CER issuanceに伴うリスク(=CDM案件としてはregistrationされたものの、予定されていただけのGHG排出削減が実現しない)、CER価格の変動に伴うリスクなど。次期枠組みを巡る国際交渉の進捗状況なども、価格に影響を与えるリスク要因となりうる。

仮に同じだけのリスクに晒されるにしても、低開発国の小規模案件の事業体(project owner)と中進国の大規模案件のproject ownerを比べれば、後者の方が資本力が大きく、その分、リスク耐性も大きいケースが多いだろう。加えて、CER売買契約の際、買い手との間で交わされる、売り手・買い手のどちらが価格変動リスクを負うかについての交渉においても、売り手が、より大きなロットを手にしているときの方が、対買い手の交渉力を大きく保てることは想像に難くない。また、登録リスク、CER発行リスクについても、一般的に、大型案件の方が定型化が進んでいるので、そうしたリスクは少ないはずである。

こういったことから、低開発国でのCDM実施は、構造的な難しさを抱えていると言わざるを得ない。今後、次期枠組み交渉が難航し、CDM市場に流れる資金の量そのものが先細りすれば、低開発国でのCDMの実施は、ますます難しさを増すものと予測される。
Maxwell School, Syracuse, Mar 2, 22:28

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