Sunday, March 14, 2010

Wind Consideration (cont.)

風力ネタ、続き。一部、knj君とのdiscussionへの回答含。(今回も、レスお待ちしてます)

前回取り上げたPuga and Lesser (2009)によると、NY州のRPSは、transmissionとの関連で、以下の3つの問題を抱えているという。
  1. NYISO(New York Independent System Operator)のgrid system planning process上、新規のtransmission建設が認められにくい。(because ①厳格なcost-benefit test と ②配電事業者(LSEs: Load Serving Entities)による80% supermajority approvalの両方をクリアしなければならない)
  2. 最近まで、系統連係(=発電施設をgridに接続する)時の“deliverability test”(which “ensures that the electricity a new generating resource ... can actually be delivered to load centers over the transmission grid.”)を欠いていた。
    → “a significant share of existing wind generating capacity in New York is "bottled up."” (現在、NY州内に存在する風力発電能力の相当割合が“ダダ漏れ”している)という結果に。
  3. ようやくdeliverability requirementを課したのは良いが、そのrequirementをクリアするための負担(for renewables発電事業者)が重すぎて、renewables導入の大きな障壁となりうる。
1. 及び 2. からすると、renewablesの導入量が増えるに従って、風力(或いは全renewables)からのdeliverability(の平均値)は下がってきたかに思われるのだが、generation/capacity値 [1000MWh/MW] の推移を計算してみると(データ元:US Energy Information Administration(DoEの下部組織)のwebサイト)、風力についてもrenewables全体についても、そういった傾向は見られない。

また、3.からは、直観的には、renewablesの導入量が増えるに連れて、RPS電力の買取価格が上がっていくことが予測されるが、実際には、買取価格の契約単価の平均値は、過去三回行われている入札ごとに下がってきている。

<入札実績 (実施年, 契約件数(うち風力の件数), capacity合計, 契約単価平均値)>
  1. 2004年, 5件(2件), 254MW, $22.90
  2. 2007年, 19件(8件), 533MW, $15.52
  3. 2008年, 8件(3件), 180MW, $14.75
※ 契約件数は、契約履行に至ったもののみ(これ以外に、契約するも事業開始前に頓挫したケースがある)

もちろん、deliverability及び契約単価には、transmission以外のいろんな要因が影響しているので、上記のような結果が見られたからといって、Puga and Lesser (2009)の分析が誤っているということにはならない。Puga and Lesser (2009)の妥当性を厳密に調べようと思ったら、deliverability及び契約単価の変化と、transmission要因とのcorrelationを見ないといけないが、もちろん、そんな込み入ったデータはweb上に落ちていないし、入札に参加したrenewables事業者にその点を聞いても教えてくれるかどうかは怪しい。いずれにせよ、そこまでやっていては、おそらく、予定通りに卒業できない、なんて困ったことになってしまう。
一方、トレンドとして、「deliverabilityが下がる」又は「契約単価が上がる」といった傾向は見られないにしても、そもそも(完全競争状態に比べて)「deliverabilityが小さすぎる」又は「契約単価が高すぎる」可能性はある。

NY州の場合、RPS市場の「買い手」はNYSERDA一者のみであり、NYSERDAの主催する入札に、renewables発電事業者が「売り手」として参加する仕組み。(この、「買い手が一者のみ」という形式は、NYのRPSに特有のものだが ― 他の多くのRPS制度では、買い手も複数いて、collaterallyに取引が交わされる ―、この点が、今のこの議論にsignificantな影響を与えるとは思えないので、ここでは、この特徴について深掘りすることはしない。)

renewables発電事業者は、RPS市場における「売り手」であるが、彼らは同時に、送電サービス市場における「買い手」でもある(← 発電した電気を売るためには、transmission事業者から“送電サービス”を買って、電気を目的地まで送り届けてもらう必要がある)。この送電サービス市場において、「競争圧力の排除」が見られるならば ― 上記1.の問題により、その可能性は高い ―、「非効率性と費用の上昇」(=X非効率性)が発生している可能性がある。[泉田・柳川 (2008) “プラクティカル 産業組織論” 有斐閣 p.78]
  
この場合、RPS市場そのものは完全競争的であったとしても、そこで提供される財(=“RPS Attribute”。RPS対象施設での発電量に応じて生みだされる権利)の生産コストに、transmission事業者の享受する(送電サービス市場での)独占利益が織り込まれるかたちになるので、全体としてみれば、必ずしも効率的ではない可能性がある。NYS-RPSの場合、NYSERDAが購入するRPS Attributeの対価は、電力料金に上乗せしてratepayerから徴収されるお金で賄われているので、「効率的でない」ということは、すなわち、ratepayerが「完全競争価格」以上の料金を負担させられている、ということ。もし本当に、そういったことが起こっているのだとしたら、望ましい状態であるはずはない。

RPS制度とtransmission整備に関するここまでの議論を整理すると、
  • RPS目標値を達成するためには、renewables発電源に十分なdeliverabilityを与えるtransmissionの整備が必要。
  • 単に目標値を達成するだけでなく、それに要する費用(究極的にはratepayerが負担)を最小化・最適化するためには、transmission整備に要する費用の適正分担が必要。
ということになるかと。

さらに言うと、前回の議論にも通じるが、ratepayerから義務的に徴収される財源で以て賄われるものである以上、RPSの目標値は、闇雲に上げていいものではないはずである。
この点に関し、NYの公共サービス委員会(Public Service Commission; PSC)のOrder (Apr 14, 2005)に基づくmid-term program evaluation (2009)(参照)の中で、“independent evaluation contractors”の一つとして、RPS制度の評価・分析を行ったKEMAは、同evaluation報告書の中で、今のトレンドで行くと、当初の目標を達せするためには、RPS Attribute買取資金が不十分であることを指摘。具体的には、2004年の公共サービス委員会Orderで認められた買取資金の徴収総額$741.5millionを原資に、2013年までの目標を達成するためには、RPS Attributeの買取単価は$7-8/MWhでなければならない計算になるという。一方、実際の価格は、先に見た通り、制度開始当初に比べれば下がったとはいえ、10ドル台中盤で推移しており、未だ、その差は大きい。[“New York Renewable Portfolio Standard Program Evaluation Report” (2009) p.39]

KEMAは、同報告書の“Recommendations”において“If targets are not set in accordance with available funding, the target is not realistic.”とも述べている。[p.55] この点、KEMAがNYSERDAに提出した、元報告書(KEMA (2009) “New York Main Tier RPS Impact & Process Evaluation”)の方も、読んでみる必要があるかと思う。

なお、KEMAは、買取価格が当初見込みより高くなっているだけでなく、renewables電源の導入スケジュールも、当初予定より遅れ気味である点を指摘している。もちろん、この事実だけでは、「当初の目標設定が高すぎた」と判断するのに不十分であり、更なる検討が必要なのだが。

一方で、公共サービス委員会は、RPSの導入目標を、現行の“2013年までに25%”から、“2015年までに30%”に引き上げる新Order [CASE 03-E-0188 “Order Establishing New RPS Goal and Resolving Main Tier Issues”]を今年1月に採択している。まだ中身は読めていないが、「目標値を引き上げる」という決断に至った背景の議論についても、このOrderの中で述べられているようなので、近いうちに読んだみたいと思う。
my room, Syracuse, Mar 14, 19:50

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