Saturday, March 13, 2010

Puga and Lesser (2009)

風力発電ネタ。

J. Nicolas PugaとJonathan A. Lesserの共著論文Why Transmission Planning and Cost-Allocation Methods Continue to Stifle Renewable Energy Policy Goals (2009) が、大変、示唆に富んでいる。とりあえず、この論文の世界観をベン図で表してみると、多分、こんな感じ。
我々一般人(というか、ほとんどの人)がrenewables development (再生可能エネルギー発電源の導入促進)を考える際に、普通、最初に目が行くのは、Generating costs=発電施設そのもの(風車、太陽光パネル、etc.)のコストの問題。

しかし、発電施設というのはstand-aloneで使えるデバイスではなく、作った電気を市場に送りだせるよう、grid(送電網)に繋いではじめて意味を持つシロモノなので ― stand-aloneで使われるケースもなくはないが、現下の先進国の社会構造においてそういった使われ方をするケースは稀であり、また、通常、RPS制度の対象外でもある ―、 電気を作ったはいいが、grid側にその全量を受け入れるだけのcapacityがないということになると、(ごく大雑把に言って)「全量受入れ」から遠ざかる分だけcost-performanceが落ち、また、温室効果ガスの排出削減効果も減る、ということになってしまう。

このため、より広い意味での(言い換えれば、「より正確な意味での」)efficiencyを考えるためには、Generating costsだけでなく、Interconnection costs(接続コスト。expected renewable resource developmentのdeliverability(送電可能性)を確保するために必要なnetwork upgrade(送電網の補強)の費用)も加味したTotal costsベースで考える必要がある。しかし、このTotal costsについて、筆者らは、「多くのRPSにおいて、考慮されてこなかったように見受けられる(“does not appear to have been considered in the context of most RPS mandates”)」としている。(※)

この点、以下の二節で、もう少し具体的に述べられている:
The current situation, where states mandate the development of renewable generating resources and, at the same time, impose transmission cost allocation policies that make such development financially infeasible, is clearly unworkable. [p.17]
(拙訳) 州政府が、再生可能エネ発電源の開発に義務的目標を課すのと同時に、一方で、そういった再生可能エネ発電源開発を金銭面で困難にする送電網整備コスト配分政策をとっている今の状況は、うまくいくはずがない。 
Too many RTOs continue to have interconnection requirements that are biased toward existing transmission owners (e.g.. New York) or saddle renewable generators that happen to occupy certain spots in the queue with extraordinary upgrade costs. [p.19]
(拙訳) 未だに、多くのRTOs [注: Regional Transmission Organizations。単一の又は隣接する複数の州ごとに儲けられている電力市場運用を管轄する公的主体] は、既存送電網所有者に有利な接続基準 [注: 新規発電施設を送電網に接続するための基準] を維持していたり(たとえばNew York州)、或いは、運悪く特定の順番で接続の申し込みをしてしまった再生可能エネ発電事業者に、莫大な [送電網の] 改修費用を負わせたりしている。
つまり、Total costsベースでみたときのcost allocationが、新たに再生可能エネ発電源を建設・接続しようとする事業者に対して、過度に不利になっている場合が多く、そのことが、renewables developmentの妨げとなっている、というのが筆者らの主張。

この状況を改善するためには、“the [transmission interconnection] costs should be allocated broadly, as they are with many public goods”(送電網接続コストは、多くの公共財がそうであるように、幅広い主体によって負担されるべき -p.17-)と続く。

ここまでの筆者らの主張を僕なりの言葉で言い換えると、
  • RPS制度というのは、再生可能エネ発電源の導入率についての一定を目標値を、最小の社会的コスト(“least-cost”)で達成するための手段と看做されているが、
  • interconnection costsも加味したtotal costsベースで考えるならば、そのような成果は、以下のいずれかの条件が満たされる場合にのみ実現する:
    • 送電網側の送電容量に制約がない、又は、
    • (制約があったとしても)送電網事業者がmarket powerを有さず、「送電サービス」市場(←再生可能エネ発電事業者は、この市場のone of 買い手s)において完全競争が実現している。
  • 実際には、これらいずれの条件も満たされないのが普通であり、結果、「送電サービス」は過少供給(with高価格)となりがち。
  • したがって、RPSを義務として課す以上は、「送電サービス」を公共財として捉え、社会全体の幅広い費用負担をベースに、公的機関がその供給に責任を負うべきである。
といった感じになろうかと。

ここまでならば、しばしば見かける議論と言えなくもないのだが、この論文の主張は、更に外側へと拡大する(最初のベン図の緑色の世界から赤色の世界へ)。目標達成のための投資の一部に、「公共財」的性格を持たせる以上、RPSの目標値は、ただただ「高ければ高い方がいい」というようなものではなく、どこかに「適切な水準」があるはずだ、と。この点について、具体的には、以下のように述べている。
Most importantly, state legislatures must estimate and consider the cost of the transmission necessary to develop new renewable resource areas prior to increasing RPS goals. [p.19]
(拙訳) もっとも重要なことは、州議会の議員たちは、RPSの目標値を上げるのに先立って、新たな再生可能エネ発電立地エリアの立ち上げに必要な送電網整備コストの予測・検討を行わなければならないということである。
... policymakers need to rethink RPS requirements to make sure they are the most cost-effective means of achieving specific policy goals. In the case of RPS requirements, it seems that an urge to "do something" has, in some cases, overshadowed the complex but the necessary task of considering existing transmission policies both in a broader context and in relation to new policies. [p.19]
(拙訳) 政策決定者たちは、RPS基準が一定の政策目標を達成するための、もっともcost-effectiveな手段であるかどうかについて、今一度、再確認するべきである。RPSについては、しばしば、「何かしなければならない」という切迫感が、現行の送電網政策を一般的に、また、新政策との絡みで、見直してみるという複雑ながらも必要な課題を、覆い隠してきてしまったように感じられる。
個人的には、これまで読んできたrenewables development系の論文の中で一番のヒット。ちなみに、筆者の二人は、それぞれ、ここここで働く経済コンサルタントさんらしい。

※ 同論文の分析対象は、米国内各地のRPS制度。なお、現時点において、アメリカでは、連邦レベルのRPS制度は導入されておらず、州レベルでの実施のみ。
Maxwell School, Syracuse, Mar 12, 24:35

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