ときどき、このblogにもコメントを寄せてくださっている「私~」さんこと、Maxwell SchoolのS先輩が、“
Shades of Green”という論文を送ってくださった。
ミシガン大学(University of Michigan)でSustainable Enterprise(持続可能な事業論?)を教えている
Andrew Hoffmanという 教授の書いた、ごく最近の論文。
social networking toolsを使って、企業と環境系NGO(=ENGO)の関係を「map」形式で視覚化し、その結果をもとに、ENGOを5つのグループに分類して、それぞれの特性を分析しようという試み。僕みたいなsocial network素人さんにでも容易に理解できる内容で、同業者の方々(特にアメリカの環境政治事情に興味のある方)にはお勧め。ちなみに、Hoffman先生はUS-EPAでの勤務経験もアリとのこと。
全米6,493のENGOの中から、予算規模の大きい順に69の団体を抽出。各団体が、どんな企業とrelationshipを持っているかを調べ上げ、最低一つ以上の企業と関係のあった44団体(逆に言うと、69団体中25団体は、いかなる企業とも関係を持っていなかった)のデータを、
the UCINET Social Networking Analysis Softwareというソフトにぶち込むと、以下のような「map」がoutputされる(らしい。残念ながら、ここのプロセスは、僕にとってはブラックボックス。)。
簡単に言うと、緑の丸がENGOを、青い四角が企業をそれぞれ表していて、緑の丸の
サイズが大きいほど、たくさんの企業と結びつきがあることを示している。また、緑の丸の
位置は、eigenvector centralityの度合いを表現。mapの中心に近いほど、eigenvector centralityが大きいことを示している。eigenvector centralityという概念を完全には理解できていないのだが、直観的に言うと、「Googleの検索結果で上位にランクされる」=「eigenvector centralityが大きい」ということらしい。
この「map」と、もう一つの同様の「map」をベースに、69のENGOを分析した結果が以下の表。
まず、企業との関係を一切持っていない25の団体を“
Isolate”グループに分類。その他の44団体を、縦軸・横軸のマトリックスで整理し、“
Mediator”、“
Bridge”、“
Independent”、“
Captive”の4グループに分類している。横軸が示しているのは、“the ENGO's position between the core and the periphery of the corporate network”、つまり、企業とのネットワークの中で、どのくらい中心的な位置を占めているか、という指標。一方の縦軸は“the diversity of sectoral ties that the ENGO has”、つまり、どのくらい幅広い業界と関係を持っているかを示している。
長くなるので、各グループの特性に関する分析は端折るが、ごくごくザックリ言うと、autonomy(自律性)とinfluence(影響力)の二つの軸で各グループを分析。単純に言えば、
Mediatorは、企業との関わりが深い分、企業への影響力がある反面、自律性を制限されるリスクがある。一方、企業と一切の親交を持たない
Isolateは、自律性を保ちやすいが、如何せん、企業への影響力には欠ける、といった具合。
それを踏まえての筆者の主張は、
Regardless of which of the fi ve roles an ENGO plays, the organization must continually manage the tension between exerting influence over the corporate sector and maintaining autonomy from it.
というもの。influenceとautonomyのバランスを保つことが大事だ、ということだ。そのための一つの方法として提案されているのは、異なるタイプのENGOが協働することで、結果的にバランスを保つという方法。たとえば、
IsolateグループのENGOが、特定の企業に対してプレッシャーをかけると同時に、
MediatorグループのENGOが、当該企業が批判の対象となった活動を改善するのをサポートする、といった具合に。筆者の主張は、(どのタイプのENGOが優れているとかいないとかいうことではなく、)役割分担に応じた共闘こそが重要だということ、またそのために、各ENGOが自らの立ち位置・役割を十分理解して行動することが重要だ、とのかたちでまとめられている。
アメリカの環境問題を語る際に、必ず出てくるのがNGOという存在。しかし、メジャーどころを数えてみただけでもかなりの数のENGOが活動しており、どのNGOがどういうキャラクターかを理解するだけでも、我々外国人にとっては、結構大変。その意味で、この論文の「分類表」は非常に便利。
また、筆者の結論は確かにその通りだと思うのだが、それを踏まえて、日本を振り返ってみたときに、Mediatorに当たる有力なNGOが皆無と言っていい状況であることに気づかされる。筆者は、アメリカにおけるENGOの多様性を指して、“This diversity is a historical product of the changes that have occurred in the environmental movement over the past century”と述べているが、歴史の長さについてなら、(それが良いことか悪いことかは別にして、) 日本の環境問題も、アメリカのそれに負けていない。日米のNGOの層の厚さの違いは、何も環境分野に限った話ではなく、そう考えると、日本にMediator的ENGOが育たない原因は、文化、道徳観、或いは人生観といった、環境問題の世界に納まらない、何かもっと根本的なところにあるのではないかという気がする。
Maxwell School, Syracuse, May 10, 20:33