Saturday, September 19, 2009

USA.gov


横江公美著 『アメリカのシンクタンク ―第五の権力の実相―』(ミネルヴァ書房・2008年)を読む。

アメリカのシンクタンクについて、もう少し詳しく勉強してみたくなったので、Amazon.co.jpで検索して一番それらしい本を買ったのだが、半分アタリで、半分ハズレだった。「ハズレ」という言い方も著者に対して大変失礼だが、別に「面白くなかった」という意味ではなく、むしろ非常に興味深い内容ではあったのだが、買った時に予想していた内容からは少し「ハズレ」ていた、という意味で。
  
「はしがき」に、本著は『アメリカの政治に関する情報環境の変化を整理し、ついで、政治情報が増加している様態を、シンクタンクの新しい役割の観点から分析しようとする』ものだとある。実際、本著の前半部分は、「電子政府」による情報急増と、それを受けたマス・メディアの在り方の変化の説明に充てられている。この部分、予想外ではあったのだが、読んでみると非常に面白い。とういわけで、今日は、まず前半部分についての感想を書きたい。次回のエントリーでは、シンクタンクそのものに焦点が当てられる後半部分について書こうと思う。
  
この部分では、アメリカの「電子政府」が、政策関連情報のデータベースとして、如何に進んでいるかが述べられている。たとえば、「日本の電子政府は、発表情報を提供しているに過ぎず、アメリカの電子政府は、発表情報に加えて、政策過程で生じる公文書まで公開していることが両者の際立った違いになっている」(p.2)とか、「アメリカの電子政府では、電子情報自由法(1996年改訂)にもとづいて、頻繁に情報公開の請求を受ける公文書を、「電子政府」で公開している」(p.20)とか。同法は、「連邦政府内の各機関のサイトには、「電子閲覧室(Electronic Reading Rooms)」とうページを設け、各部門の年次活動報告などの基本情報や、頻繁に公開請求があった公文書を掲載することを義務付けている」らしく、見てみると、確かに、EPAならこちら、DOEならこちら、といった具合にそれらしきページが設置されている。

国立公文書記録管理局(NARA: National Archives & Record Administration)が運営するArchives.govは、「省庁の情報を縦横無尽に検索する」ので、ここのデータベースで検索すれば、「他の(省庁の)サイトにアクセスする必要がない」(p.39)んだそうで、このサイトからは、「1845年に江戸幕府がペリーと結んだ日米和親条約の原文も検索できる」んだとか。確かに、ありました。また、電子政府の総合窓口にあたるUSA.gov(旧称:Firstgov.gov)は、2000年の開設以来、継続的に改善が加えられており、非常に使い勝手のいいportal siteに仕上がっているといったことも書かれてあった(p.53)。

このように、アメリカで「電子政府」が目覚ましく発展してきた理由として、著者は、
  • インターネットの開発以前から、もともと政府情報の開示への取組が早かった。(1966年に「情報自由法」(政策過程の公文書を公開することを定める)を制定。ちなみに、日本で情報公開法が制定されたのは1999年。)(p.21)
  • そもそも、インターネットを国策として開発した国であり、したがって、「電子政府」への取組も非常に早かった。(1993年にはクリントン政権が「電子政府」の構築に着手。当時、インターネットはまだ一般的には普及していなかった。)(p.19)
  • 2000年の大統領選以降、インターネットを使った選挙活動が本格化。以降、通常の政治にもインターネットが本格的に活用されるようになった。(p.53)
などの点を挙げている。

実際、公共政策を学んでいる日本人学生の間でも、アメリカの政府系データベースの使いやすさには大変定評がある。公開されている情報の「量」と、それらを探し当てる検索機能の「質」の両面において。恥ずかしながら、僕はその恩恵を被った経験がまだそんなにないのだが、少ない機会ながら、Energy Information Administrion のサイトや、CIAのThe World Factbookを使った際には、その情報量の多さと調べやすさに、確かに舌を巻いた。
  
この分野に関して言えば、「情報公開を進めよう」という意志と、「どのようにデータベースを構築するか」という技術の両面で、日本政府は、アメリカ政府に大きく水をあけられているように思う。本著の著者も述べている通り、このissueに取り組んできた歴史の長さの違いが、それだけの差が付いている一番の原因だとは思うが、じゃぁ、日本がいま、必死に追いつこうとしているかと言うとそういうわけでもなく、このままでは、今後も差は縮まらないばかりか、むしろ開いていくんじゃないかと思う。
  
ともあれ、アメリカでは、インターネットの敷衍とともに登場した「電子政府」のおかげで、従来とは比べ物にならない量の政策関連情報に、誰もが容易にアクセスできるようになった。流通業界では、インターネットの登場により、まずは、仲介業者の役割が減少する「ディスインターメディエーション(disintermediation。いわゆる「中抜き」)」が起こったが、変化はそれだけに止まらず、「散在する小売店や中小企業などの情報を収集し、検索しやすいデータベースにして提供」する「リインターメディエーション(reintermediation。ebayや楽天がその代表例)」現象を生むに至った。著者は、「電子政府」の発展に伴う政策情報の急増 → シンクタンクの存在感拡大という、90年代後半に見られた一連の動きも「リインターメディエーション」の一形態として理解することが可能だという。つまり、入手可能な政策関連情報が急増した結果、マス・メディアのために、それらの情報を「整理し再編集する情報プロセッサーが必要」になり、「この新たな役割をシンクタンクが担うようになったのだ」と。
      
というわけで、次回は、アメリカのシンクタンクそのものについて書かれた後半部分の感想を書きたい。
Seventh Ave. 30th St, Manhattan, NYC, Sep 19, 18:42

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