さて、今日は、大統領討論会について書こうか金融危機について書こうか迷いましたが、金融危機について書くことにします。なんでかって…?話せば長くなりますが、かいつまんでいうと、S君の記事に勝てる自信がないからです。というわけで、大統領選について知りたい方は、こちらをどうぞ(笑)
というわけで、金融危機のお話。最近のアメリカでは、"$700 bilion"、"bailout" というふたつのキーワードが飛び交ってますが、これは、日本でも(たぶん)報じられているところの、「金融安定化法案」のお話。7000億ドル(75兆円くらい)の公的資金投入が売り文句の法案で、目下、ワシントンでは超党派で協議中です(だそうです)。
この"700 billion"という数字、アメリカ人にとってもかなりインパクトがあるみたいで(日本の一般会計予算と同じくらいですもんね。そりゃそうです。)、テレビでもMaxwellでも、賛成にしろ反対にしろ(総じて賛成ですが)、その額そのものが話題の対象になりがちです。ですが、今日のワシントンポストに出ていたSebastian Mallabyさんの記事は、むしろどう使うかが問題だと、主張しています。
彼の記事の概略をまとめると、こんな感じ。(ちょっと補足加えてます。)
まず前提としてあるのは、経済(あるいは市場)にとって良い状態(=好況)というのは、モノがバンバン売り買いされている状態だということ。これが、不況になってくると、モノに買い手がつきにくくなります。なぜなら、「今買っても、値下がりするんちゃうかなぁ」という不安が買い手の頭をよぎるから。そうなると、ますます売買が成立しにくくなって、ますます不況が深刻に…という悪循環にはまります。どぼん。アメリカ経済は、今まさにこの不況の崖っぷちにいるわけです。(しかも、その崖はめちゃめちゃ深そうなので、いっぺんはまったら当分上がって来れなさそう。)
ここで政府がやりたいことは、もう一度市場を活気づける(=売買成立を増やす)こと。そのために用意されるのが$ 700 billionちゃんで、今のところ、不良債権の購入に充てられる予定です。ここで問題なのは、どういう価格で購入するか、ということ。
$ 700 billionちゃんを使って、政府がやりたいことは、
- 政府が、市場のplayerから不良債権を購入する。
- それを見た別のplayerに「最終的に政府に買ってもらえるんやったら、いったん不良債権買って、それを政府に転売すれば、一儲けできそうや」との期待を抱かせる。→ playerは、実際に不良債権を買う(=民間player間での売買が成立する)。
- 2.の売買が至る所で起こり始め、気がついてみると、民間player間での売買だけで、市場が回るようになっている。
という流れを生み出すこと。つまり、1.で呼び水として機能することで、2.の期待を膨らませるというのが、$ 700billionちゃんのお仕事なわけです。
しかし、Sebastian君(あ、この記事の著者です。ガイジンの名前って、ほんと覚えられないですよね…。え?僕だけ??)曰く、"Unfortunately, this is probably too optimistic." だそうです。なぜなら、
- $ 700billionが、いくら財政支出としては巨額だとしても、アメリカの預金総額に比べたらケタはずれに小さい。
- ゆえに、市場参加者は「$ 700billionなんてすぐに底つくよな」→「いま不良債権を買っても、僕が政府に転売しようとする頃には、たぶん政府はもう買い取ってくれないよな」と予測する。
- したがって、playerの間で前向きな「期待」は発生せず、$ 700billionちゃんは「呼び水」機能を果たすことなしに一瞬で蒸発する(じゅわっ)
から。なるほど。確かに。
これを踏まえて、Sebastian君(いい加減覚えましたか?著者ですよ。)は、「可能な限り安く買いたたけ」と言ってます。なぜなら、それを見たplayerは、「え?政府ってそんな値段(たとえば額面の30%)でしか買ってくれへんの?僕の持ってる不良債権は、言うても額面の40%くらいの価値はあると思うから、そんなんやったら市場で売った方がましやんか」と思って、市場に売りに行く(→市場が回り始める)から。
しかし、ここには難しいジレンマがあります。Bernanke君(FRB議長)とPaulson(財務長官)君は、目下、金融危機に対処するために、民間playerの有名どころと"dream team"を組んでお仕事中。なので、不良債権を安く買いたたくということは、team mateに割を食わせることになるのです。これは、いくらアメリカ人が一見フレンドリーに見えて、ほんとはドライで冷たいヤツらばっかだとは言え(注:Sebastian君は別にそことは言ってません。)、さすがにしんどい…。
そこで、Sebastian君がお薦めするのが、公的資金の直接投入!!! (お、なんかどっかで聞いたことある響きだ…。) 銀行の資産を蒸発させることなく、市場の売買を再活性化させるためには、$ 700billionちゃんの一部を、直接、銀行に突っ込むしかない、と言ってます。("he(=Paulson) should overcome his squeamishness about using part of the bailout fund to bolster banks' capital." -ポールソンは吐き気を催してでも公的資金の一部を銀行資本の下支えに使うべきだ-) ちなみに、Paulson君は、ゴールドマン・サックスの元会長兼CEO。市場経済に政府が介入するのは大嫌いな人なので、「吐き気を催してでも」って表現になるわけですね。
皆さん、わかりましたか?著者の名前は、Sebastian君ですよ(←そこじゃない)。
さてさて、来週はどう動くんでしょうか…? もちろん、大統領選とも絡んでくるので引き続き、見ものであります。あ、念のためもっかい言っときますが、大統領討論会の記事を読みたい方は、S君の記事をどうぞ(←しつこい?? )
my home, Syracuse, Sep 26, 26:14
4 comments:
ご紹介ありがとうございます。そんな大したこと書いてないんですが。。
この80兆円のbailoutですが、額がインパクトでかいですよね。昨日オバマも大恐慌以来の危機だといっていたとおり、なんかとんでもないことが起きていることはわかるのですが、その影響が今後具体的に市民にどう降りかかってくるかが不安です。うちの教授陣も興奮して毎回の授業で取り上げてます。
あと、環境分野にはどういう影響があるんですかね?
最悪なのは、アメリカ経済に対する不信がアメリカ政府(具体的には国債)に対する不信に転換するってことじゃないでしょうか。今回のbailoutにしても財源は国債しかありえないので、市場が再活性化して政府が売り抜けられたらいいけど、それができなければ、売れなかった分だけ、純粋にアメリカ政府の借金が増えることになる。そうやって借金が膨らんでいって、どっかの時点で市場が「米政府にはこれ以上の借金を抱える余力がない」と判断したら、その時点で、米国債に対する信用はガタ落ち→米国債が紙切れになる→世界市場大混乱…。
そこまでいかなかったとしても、銀行が守りに入るだろうから、いわゆる「貸し渋り」
「貸しはがし」の蔓延→事業会社の業績悪化→一般人の給料・雇用に悪影響→デフレっていう、どっかの国が20年前くらいに経験したサイクルにはまる可能性があり得るかと思います。
環境については、「市民の環境に対する関心が削がれる」という意味ではマイナス、「エネルギー消費が落ち込む」という意味ではプラス、総じて「プラス」というのが影響ではないかと思ってます。決して良い(=sustainableな)「プラス」ではないけどね。
日本政府も米国債うなるほど持ってますから、それは困りますね。貸し渋りなど経済全体の停滞は最大の輸出先として日本企業が市場を失うと。
エネルギー消費減らしてくれるといいんですけどね(笑)
田原総一郎曰く、いわゆるlost decade以降、日本の事業会社の中にも、(お金を貸してくれない)邦銀に代わって外銀からの融資に頼っていたところが少なくないので、貸し渋りの影響は、直接日本にも波及する可能性があるそうです。今のところ、その動きでの目立った動きはないみたいやけどね・・・。
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