Friday, February 5, 2010

"Going Rogue"

イギリス留学中の職場の後輩Iから、「(アメリカでは、Sarah Palinの)何がそんなにウケるんですかね。」と聞かれて、返答に窮してしまった。確かに、何がそんなにウケてるんだろうか?

McCain-Palin陣営の敗北で2008年の大統領選挙が終わって既に一年以上が経っているというのに、彼女のニュースは、引き続き、断続的にメディアで報じられているし――その大半がゴシップネタであるにしても――、昨年秋に発売された彼女の回顧録“Going Rogue”は、政治家の回顧録とは思えないほど快調な売れ行きを見せている。(NY Timesベストセラーランキング(1/29付)Hardcover Nonfiction部門 第4位、10週連続ランクイン中)

念のため、アメリカ国外にお住まいの方のために断わっておくが、そうは言っても、多くのアメリカ人にとって、Palinは、引き続き「ネタ」担当おばちゃんであり、マジメに「次の大統領候補」と目されるような政治家ではない(と思う、というか、思いたい)。後輩Iがblogの中で「(英メディアの)多くの特派員が共和党のSarah Palinに言及している」と書いていたが、これは、彼女の友人氏がいみじくも言い当てている通り、“バカなアメリカ”をニュースにしたい英メディアの趣味の投影であると思う。アメリカにしてみれば、Palinよりも注目すべき問題は他にいくらでもある。(風船少年問題とか、タイガー=ウッズ不倫騒動とか…。うーん、どうでもいいな。)

とは言いながら、“Going Rogue”がこれだけたくさん売れているというのは、落ち着いて考えれば、結構スゴい(或いは、ヤバい)ことである。一年半もアメリカに住んでいると、それが当たり前に思えてきてしまうが、この件については、イギリスから見ている後輩Iの感覚の方が、「まとも」と言うべきだろう。 

というわけで、クラスメイト数人に、「何がそんなにウケてるんですかね?」とメールで聞いてみたところ、そのうちの一人が、Washington Postの書評を送ってくれた。読んでみると
I'll go out on a limb and predict that if you like Palin, you'll like "Going Rogue" -- and if you don't like Palin, well, I hear the new Stephen King is pretty good.”
(拙訳) 思い切って言っちゃいますけど、もしあなたがPalinのことが好きだったら、“Going Rogue”も気に入ると思いますよ。――でもね、もしあなたがPalinのこと、嫌いだったら……そうそう、Stephen Kingの新刊が結構イイって評判ですよ(汗)
なんてことが書かれてあったりする。一見、そんな当たり前のこと言ってもしょうがないじゃないかと思うのだが、最後まで読んでみると、要するに、
  • アメリカのconservativesとliberalsは、このところ激しく二極化しており、
  • conservativeな人たちにとっては、この本(とその著者であるPalin)がすごく魅力的に映っているのに対し、
  • liberalな人たちは、「Palinなんてどうしようもないバカだから、とっとと消えてくれ」と思っている 
  • この本は、奇しくもその二極化を映し出すレンズとなっている(読んだ人の考え方に影響与えるなんてことは、まぁ滅多に起きないだろうけどね)
みたいなことが言いたいらしい(イマイチ、英語の解釈に自信がない)。

少し話は逸れるが、その書評の中に、興味深い一節があった。(下線、blog筆者)
To her supporters, she is, as she puts it, a "common-sense conservative" who isn't afraid to make moral judgments. To her detractors, she's a moronic zealot who has no place in American public life.
アメリカ人と話をしていると――大学にいるアメリカ人なんて、たいがいliberalだが――、“judgmental”という言葉をときどき耳にする。それも否定的な文脈で。“Don't be judgmental!”とか“I don't wanna be judgmental, though I think blablabla...”みたいに。この“judgmental”という言葉、敢えて日本語に訳すと「断定的」みたいな感じになるのだが、それとも少しニュアンスが違っている。というか、まったく同じニュアンスの言葉は日本語には多分ない。つまり、ある種のアメリカ人(=liberals)にとって、「価値観の押しつけ」をすること(=judgmentalにふるまうこと)は、一般的日本人が考えている以上に、やってはいけない(或いは、やりたくない、美しくない、かっこ悪い)ことなのだ(と思う)。

そういう層が普通にたくさんいる一方で――或いは、そうだからこそ――、逆に、Palinみたいな、“who isn't afraid to make moral judgments.”な「価値観ゴリ押し」おばちゃんに惹かれる人もいる。とどのつまりは、そういう二極化した状態が、今日のアメリカの姿、ということなんだろう。おそらく。。

答えになっているかどうか、よくくわかりませんが、Iさん、少しはお役に立ったでしょうか…?
my room, Syracuse, Feb 4, 26:11

2 comments:

I said...

bayaさん、ありがとうございます!なんとなーく、分かる気がするかも。イギリスでも、「価値観ゴリおし」とはちょっとニュアンスが違うとは思いますが、ジェンダーとか人種とかに関して一歩踏み込んだ発言をするとき、多くの人が「こう言うとpolitically incorrectかもしれないけど…」と神経質なまでに前置きをする気がします。そういう空気は、保守的な人に限らず息苦しさを感じるレベルにまで来ている模様。友人の知り合いがバイトを雇う時に、人材派遣会社に応募者の事務処理能力について尋ねたら、「それに答えることは事務処理能力の劣った人を差別することになるから答えられない」と言われて唖然としたとか。

で、何が言いたいかというと、多様性を尊重しようとする国なればこそ、「"正しく"あろうとすること」が時に行き過ぎて、保守への揺り戻しが、一部の層で、変な形で出ちゃうこともあるのかな、と思いました。イギリスでも、移民排斥を唱える極右のBNP(British National Party)が急激に支持率を伸ばしているらしいですし。

髙林 祐也 said...

その話はスゴいね。じゃぁ、なに、「今後、採用試験は全部くじ引きにしましょう」~みたいな!?

アメリカの面白いところは、左右両翼ともに「アメリカのアメリカらしさ」を肯定することからスタートしているところ。ただ、「肯定」の仕方が右と左では違ってて、liberalsが「アメリカ=自由だよね。だったらとことん自由でいいじゃん♪」と言うのに対して、conservativesは(特に文化・風習的な面で)founding fathersの時代の“古き良きアメリカ”的価値観こそが大事なんだと考えている。両方とも「アメリカ」のこと自体は大好きなんだけどね(笑)
  
Palinを支持してる人たちって、実際に一対一で会ってみれば、実直で、気のいい、田舎のおっちゃんおばちゃんだったりするのかもなぁなんて思ってみたり。ただ、そういう、一人ひとりとして見れば本当にナイスな人たちが、「層」となり、一つの政治勢力となったときに、非常にやっかいな存在になるというのは、程度の差こそあれ、各国共通の事情なのかも知れませんね。

参考:http://baya-msj.blogspot.com/2009/01/american-contemporary-philosophy.html