Tuesday, February 9, 2010

'fast track'

外交関係の授業を受けていると、たまに、「その国際合意は、treatyか、それとも、agreement (other than treaties)か」みたいな議論に出くわす。これまで、その違いがイマイチよくわからないままに来てしまっていたのだが、今日のInt'l Trade Lawの授業で、とてもわかりやすく説明されていたので、忘れないうちにメモしておく。

まず、米国がヨソの国と結ぶ国際約束(international agreement)は、以下の4つに分類できる(国際的な効力はいずれも同じ)。
  1. “Article II” Treaties (或いは、単に“Treaties”)
  2. Congressional-Executive agreements
  3. executive agreements pursuant to treaty
  4. Presidential-Executive agreements
1.の“Article II” Treatiesは、合衆国憲法Article II, Section 2, Clause 2(‘Treaty Clause’:“[The President] shall have Power, by and with the Advice and Consent of the Senate, to make Treaties, provided two thirds of the Senators present concur....”)に基づいて締結されるもの。基本的には、どんな国際合意にも使えるが(※ 違憲でない限り)、Senateの三分の二以上の賛成(いわゆる“super-majority”)が必要なので、実際にはあまり使われない。

2.のCongressional-Executive agreementsは、連邦議会(Congress)が、一定の範囲・期間内に限り、交渉権限を大統領に委任(delegate)するというもの。この場合、〈議会によるdelegation〉 → 〈大統領による(相手国との)negotiation〉 → 〈議会によるvote〉という流れを経ることになるが、最後のvoteは、up-or-down形式(賛成か反対かの二択。修正は不可)の単純多数決で、filibusterも使えないので、1.に比べれば、はるかに成立させやすい。いわゆる“fast track”はこのoptionを使ったもの。ちなみに、議会によるdelegationは、憲法Article I, Section 1(“All legislative Powers herein granted shall be vested in a Congress of the United States, which shall consist of a Senate and House of Representatives.”)によって授権された議会の立法権(legislative Powers)に依拠している。

3. のexecutive agreements pursuant to treatyは、既に締結されているtreatyの「執行(implementation)」とみなされる範囲内であれば、新たな議会手続きを経ずに行政府だけでagreementを結べるというもの。手続きは簡単だが、当然ながら、このoptionを使える範囲は非常に限られている。

4.のPresidential-Executive agreementsは、憲法Article II各sectionに規定された“executive power”だけに基づき、議会手続きを経ずに諸外国とのagreementを結ぶというもの。

Executive Branch(行政府)の立場からすると、4.を使えるならそれに越したことはない、ということになるが(それが無理なら2.がsecond best)、じゃぁ、どういう場合に4.が使えて、どういう場合には使えないのか――そこの線引きが次の問題になってくる。

これについて、最高裁のJackson判事は、Youngstown Sheet & Tube Co. v. Sawyer事件(1952)のconcurring opinion(同意意見)の中で、大統領と議会の権限の線引きが微妙な場合があり得る(“...there is a zone of twilight in which he [the President] and Congress may have concurrent authority, or in which its distribution is uncertain.”)と認めつつも、議会の意思が明示的又は非明示的に示されている場合(“with the expressed or implied will of Congress”)には、大統領の権限は、「憲法によって授権された大統領権限から議会権限を差し引いた部分」(“he [the President] can rely only upon his own constitutional powers minus any constitutional powers of Congress over the matter.”)に限定されるとしている。

憲法Article I, Section 8, Clause 3(‘Commerce Clause’:“[The Congress shall have power] To regulate Commerce with foreign Nations, and among the several States, and with the Indian tribes;”)で、外国との商取引を規制する権限が議会に属することは明確に示されているので、貿易関連の国際合意に、4.を使えないのは明らか。したがって、WTOをはじめとする貿易交渉においては、2.のoptionが使われているというわけ。

ちなみに――先生から言われて初めて気づいたのだが――日本は、何もしなくても「万年fast track」みたいな状態になっている。以下、日本国憲法上の「条約」締結に関する規定(第7条(天皇の国事行為)を除く)をば。
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第60条 (略)
2 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第61条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第2項の規定を準用する。

第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
1.、2. (略)
3.条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
4.~7. (略)
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Maxwell School, Syracuse, Feb 9, 17:35

4 comments:

komu said...

TB君ありがとう。勉強になるね。議会が大統領に委任するための具体的な手続きや方法について詳しく教えて。
国内気候変動法案が通り、国際交渉が中国、インドを巻き込めれば、共和党から7票くらいは流れるんだ、という人もいますが、基本的には無理だと思うので、一部の人はCongressional Agreementの活用を考え始めてます。
まあ、米国人は国内の法案と押すことしか見えてない人がほとんどですが。

髙林 祐也 said...

Komuさん(って書くと、もはやペンネームじゃなくなっちゃいますが。。笑)、コメントありがとうございます。今日の授業を聴きながら、"fast track"みたいな話って、貿易だけじゃなく、気候変動の分野でもあったりしないのかなぁと思っていたのですが、やっぱり、それを考えてる人もいるんですね。「具体的な手続き」の方もちょっとまた調べてみます。

I said...

昨年春にアメリカがUNFCCCに提出した次期枠組み提案は、「枠組条約のImplementing Agreement」でした(もちろん日本提案はtreaty)。当時は、もしや3のexecutive agreements pursuant to treatyを狙ってるのか?それってアリ?というような議論をしていたような気がしますが、やはりせいぜい2なんですかね。

髙林 祐也 said...

そういう動きもあったんですね。察するに、アメリカの中でも「推進」したい人たちは、3.の発動を視野に、その動きを模索してたんじゃないかと思います。
このクラスを受けていると、(変な言い方だけど)アメリカの「法律」って、すごく「政治」的なんだなと感じます。つまりその、立法・行政・司法の三局が、常に「権力の分捕り合いゲーム」をしていて、「法律」というのは、そのゲームの“共通言語”(鴨川ホルモーで言えば「オニ」みたいな。余計わかりにくいか。。笑)に過ぎない、というか。政治情勢や三局の力関係に合わせて、変動する存在で、まったくもってstaticでも、solidでもないんだよね。
というわけで、米国法体系上、「アリ」かどうかと言えば、「政治情勢次第。必ずしも「ナシ」とは言えない」が答えだと思いますが、肝心の「政情情勢」を鑑みるに、現下の状況では、圧倒的に「ナシ」でしょうね。。