Saturday, October 24, 2009

Business Insight

「強み伝い」の経営は破たんする。経営者は跳ばなければならない。――この三好俊夫松下電工会長(当時)の言葉から始まる、石井淳蔵著『ビジネス・インサイト――創造の知とは何か』(2009 岩波新書)について今日は書きたいと思う。おそらく、今回と次回の二部作くらいになるかと。
 
会社を経営していく上では、STP分析(p.22)に代表される「実証主義的」アプローチ――著者の言葉を借りれば「現実がそれとして成立した必然性を解き明か」そうとするアプローチ、言い換えれば「過去を分析する力を備えれば、未来に対処することができると考える」アプローチ(p.124)――に頼っているだけでは、乗り越えられない局面というものがある。それは、実際の世の中が、実証主義の前提とするような必然だけで構成されている世界ではなく、偶有性――必然ではなく不可能ではないという様相――に満ちた世界であるからであり、だからこそ、経営者は、「強み伝い」を繰り返すだけではなく、「跳ばなければならない」わけである。でもどうやって…?? この辺りが、この本がカバーしている内容である。
  
著者は、経営者が「跳ぶ」に当たっては、「将来の事業についてもつところのインサイトの存在がある」はずだという(p.10)。この「インサイト」について著者は、p.103で、「未来の「成功のカギとなる構図」を見通す力」と定義付けしている。著者は、この「インサイト」が働くメカニズムを、“tacit knowing”に関するマイケル=ポランニーの考察を引きながら解説している。
 
ポランニーの説によると、科学者がその想像力を発揮させる局面においては、以下のメカニズムが働いていると言う(p.99)。
  1. 問題を適切に把握する。
  2. その解決へ迫りつつあることを感知するみずからの感覚に依拠して、問題を追及する。
  3. 最後に到達される発見について、いまだ定かならぬ暗示=含意(インプリケーション)を妥当に予期する。
つまり、「科学者が問題を着想し、探求を持続し、発見に至る」ためには、そのプロセスの途中において、未だ「精度の高い検証は行われ」ていなくとも、その結論の妥当性について「確信」していることが必要である(そうでなければ、その研究に時間と努力を傾注できない)(p.101)。そして、著者は、このメカニズムが、ビジネスにおける「インサイト」にも妥当すると結論付けている。「いまだ姿も見えない将来の現実に向けて組織の力を駆動させるには、それなりの明確な姿を描くこと、そしてそれへの強い確信をもつことが必要だ。インサイトとは、そういうものである」(p.86。強調はMSJ筆者)と。
    
では、そういった「インサイト」を得るためには、どうすればいいのか。その性質からして、百発百中で「インサイト」を得ることはできないにしても、せめてその精度を上げるためにはどうすればいいのか。それに対する答えが、本著の核心部分になってくるわけだが、これについては、次回以降のエントリーにて。
my room, Washington DC, Oct 24, 19:31

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