Wednesday, July 8, 2009

project owner trap

あなたはいま、ある道の入口に立っている。見たところ、その道は、大きな山へとつながっているようだが、その先、どうなっているのかはわからない。「この道のゴールに着けば、あなたは「それなり」の報酬(「それなり」とはいうものの、具体的にどのくらいかは不明)を手に入れることができます」と、訳知り顔の人たちが口々に叫ぶ。しかし、あなたには、ゴールにたどり着くまでに、どのくらいの距離を歩き、どのくらいの難所を越え、どのくらいの時間とお金を費やさないといけないのか、確たる情報が何一つない――ある国で初めてCDMプロジェクトに取り組もうとするproject ownerの心境は、たとえて言うならば、こんな感じではないかと思う。こんな心境の中、「「それなり」の報酬」のために、何はともあれ歩きだそうと思える人がどのくらいいるだろうか?

コンサルタントや援助機関の人たちにしてみれば、ゴールまでの行程(=どういったステップを踏めば「CER issuance」にたどりつけるのか)については、これまで散々説明してきたという思いがあるだろう。正直、僕もそう思っていた。しかし、今日、ガーナ人である上司に、CDMの手続きを説明しながら、「どう考えても、この人はCDMの手続きを完全には理解していないし、今後も理解することはないだろう」と直感的に感じてしまった。もちろん、こちらの英語能力の欠如という大きな問題もあるのだが、それはさておいても、正直、難しいだろうと…(多分にそれは、能力というよりも「理解しよう」とする意欲の問題である)。
  
それほど工業化が進んでいるとは言えない低開発国にとって、CDMになる可能性が一番高いのは、ゴミ処理や発電といった公共サービス部門だったりする。ということは、project ownerになるべき主体は、自治体であったり、公営企業であったりするわけだ。金融機関の人たちが、それなりにCDMの知識を持っているという話は、先月の記事に書いた。しかし、自治体や公営企業はどうだろうか? 彼らが、CDM開発の工程(とりわけ、financeに関する部分)を理解しているか(あるいは、この先、容易に理解できそうか)と考えると、今日のその上司の顔を思い浮かべながら、正直、「うーーん…」と唸らざるを得ない。

CDMというのはproject ownerがまず動き出さないことには何も始まらない制度である。確かに例外はある。たとえば、HCFC工場からのHFC回収のように、CDMのポテンシャルが外部の人の目から見ても明らかな場合には、工場のowner自身は黙っていても、どこからかfundやconsultantや商社の皆さんが集まって来て、CDM化が開始される可能性は高い。しかし、そんな「おいしい」案件は、既に掘り尽くされてしまった。ましてやここはsub-Saharaである。CDMの開発ポテンシャルが小さいことは元より明らかだ。project ownerの側から動き出さないことには、そもそもコンサルタントは寄って来てもくれない。そんな状況であるにもかかわらず、皮肉なことに、その国の潜在的project ownerたちは、上に書いたように、多くの場合、CDMを理解していない人たちだ。そんな彼らが、何かの拍子に思いついて、コンサルタントを雇い、いきなりCDMのfeasibility studyを始めるなんてことが起こりうるか?もちろん答えは、NOだ。。。
  
国際機関やドナーがCDM案件の掘起こしをする活動は、各国でなされてきたようである。しかし、外野が頑張って盛りたててPIN(Project Idea Note。CDMプロセスの一番最初に作成する、概括的なプロジェクト設計書)を作るところまでは一緒にやってあげたとしても、その先、project owner自身が本気で進めようと思わないことには、CDM化は進まない。
  
最初のたとえ話に戻ると、project owner自身が歩き始める気になりさえすれば、助けの手を差し伸べる人はそれなりにいる(多くの場合は有償だが、それにしても)。しかし、得られる報酬の大きさも、越えなければいけないchallengeの大きさも、ごく曖昧にしかわからない中で、「歩き始める」というオプションを選択するのは、どう考えても容易ではない。むしろ、hesitateする方がまともな判断なんじゃないかという気さえする。
  
(潜在的)project ownerのCDM開発意欲の欠如―― ここに、低開発国でCDM開発が進まない、一つの大きな要因があるのではないかと思う。 ※※

※ 担当者レベルであれば、自治体や公営企業の中にも、CDMをそれなりに理解している人はいるかもしれないが、意思決定レベルでとなると、まず期待薄だろうと思う(そしてまた、CDMとして成り立つような規模のプロジェクトは、waste managementであれ、energy efficiencyであれ、こちらの基準で言えば一大プロジェクトに当たるので、そんなプロジェクトが、トップのコミットメントなしに動かせるとも思えない)。まぁ、その辺の事情は、日本とて、ひとごとではないかもしれないが。

※※ 海外NGOが、全面的にプロジェクトに参加し、project ownerの一部となるような形で進められている案件については、成功しているものもそれなりにあるようだ。そういう形もあり得るわけだが、いずれにせよ、project ownerがしっかりしないことには、CDMはなかなか進まない。
Accra, Ghana, July 8, 18:12

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