Tuesday, July 7, 2009

Pickens paring down wind farm project

以前、このblogでも紹介したオクラホマの「風船おじさん」ならぬ「風車おじさん」、Boone Pickensが、自らの名を冠した一大風車建設プロジェクト“Pickens Plan”の撤回を表明したらしい。Dallas Morning Newsにその記事が出ている。
    
撤退の理由が、“lack of a transmission line”(送電線の不足)というから笑える。北米大陸の中西部には、「良い風」の吹く広大な土地が広がっているが、哀しいかな、電力の大消費地(東西の海岸沿い)からは果てしなく遠い。中西部に風車をバンバン建てるのは良いとして、そこからどうやって電気を消費地に運び出すかが大問題…。そんなことは、僕でも知っている、この世界の「常識」ではないか。あれだけ大々的に宣伝を打っておきながら、そんな初歩的なところが詰まっていないなんて、いったい、どんな神経しているんだろうかと思う。結局、全米挙げて、金持ちオヤジの道楽に付き合わされただけ、ということなんだろうか…。
  
NY times web版のblog記事によると、当初、必要な送電線はPickens自らが施設する予定であったが、予定を変更し、テキサス州がPickensに代わって$5 billion相当の送電線を施設するということになったらしい。しかし、結局は、その「救済案」もPickensの願いどおりにはいかず、今般の「計画撤回」という結末に至ったらしい。もちろん、その背景には、油価の下落と金融危機の発生という、二大ショックがあったわけだが、それにしても…。
    
一年前、僕がアメリカに着いた頃、テレビではPickens PlanのCMがバンバン流れ、おっさん本人は、CNNのLarry King Liveで熱っぽく自らのプランについて語っていた(←その時点で胡散臭いと判断すべきだった。苦笑)。ガソリンの値段は最高値に達し、中東とアメリカの緊張関係には依然先が見えず。ましてや、わずか2,3数か月後に100年に一度の大不況がやってくるなんて、一般人は、ほとんど知る由もなかった。そんな中、Pickensが依って立った“energy independence”というテーゼには、一年後の今、感じるよりも、はるかに切実な響きがあったように思う。大統領選の波に乗ったのも大きかったのだろう。確か、Pickensには、Obama、McCainの両陣営から秋波が送られていたんじゃなかっただろうか。おっさん本人は、確か、予備選でMcCainに負けた共和党候補の誰かを支持していたように思うが…。
     
それにしても、この一年の間に、世の中、大きく変わったもんだなぁと思う。一瞬でも、彼が時代の寵児になれた(或いはなりかけた)前提条件は、良くも悪くも、ほぼすべてが失われてしまった。そんな、時代の寵児になり損ねた男のweb サイトを久しぶりに開いてみたら、言っていることがほとんど意味不明になっている。“TheDailyPickens”という同サイトのblogコーナーによると、CNBCのニュースショー(明日放送)に出演したPickensは、「cap-and-trade法案に賛成か?」との質問に“I’m for something bigger than cap-and-trade. I’m for saving America.”(私は、cap-and-tradeよりももっと大きな何かに賛成する。私はアメリカを救うことに賛成する)と答えたらしい。なにそれ?新興宗教??
  
Pickens Planと一緒に、風車おじさん本人も、そろそろ表舞台から撤退していただくということで。。
Accra, Ghana, July 7, 17:44

4 comments:

knj said...

このプロジェクト、ぽしゃちゃったんですか。アメリカの面白いところは、ドンキホーテがたまにすごいことをすること(ジョブズとか)ですけど、ついてなかったですね。

彼のもくろみが外れた背景はこんな感じかと。

民間企業がWind firmを立てて、電力会社に買い取ってもらう方法は、おもに次の2つです。

① PURPA法のQFに認定されて、avoided costで電力会社に強制的に買い取らせること
② RPS法の入札で契約すること

このavoided costというのは、電力会社にとってのmarginal costなので、マージナルな電力を調整する天然ガスの価格に大いに左右されます。天然ガスの価格が下がったことで、avoided cost(買い取り額)がぐっと落ちたんでしょう。そして、①でのうまみがなくなると。

通常なら②でいけばいいんでしょうけど、最近風力への投資は過剰なほどあるので、入札価格が下がってしまった、のかと想像します。そこで、いまいちな土地しか抑えられていなかったこの方の会社はTransmissionのコストを含めると他の会社に負けちゃうと。

以上、想像ですが、もう少し条件がそろっていれば面白いことになったんでしょうけどね。

髙林 祐也 said...

ドンキホーテがたまにすごいことをするってのはまさにその通りなんですが、このおっさんの場合、ちょっと緩すぎたんじゃないかという気がします。まぁ、ビジネスプランを精査した上でそう思ったと言うわけではなく、単に彼の物腰を見て言ってるだけなので、僕の感想も適当なんですが。なんつうか、ハングリー精神が感じられないと言うか。

Pickens Planはこけましたが、knjさんご指摘の通り、風車自体は好調に(というか過剰なまでに)立ち続けてるみたいなので、このプランがこけても、アメリカの風力発電市場の展開にはそんなに大きな影響はないのかなという気もします。

関係ないですが(関係なくもないですが)「クラウド化する世界」は読みました?こないだのエントリーにも書きましたが、発電システムを、「分散型」から「集中型」に切り替えるイノベーションの経緯が詳細に書かれていて、非常に面白いですよ。まだならぜひご一読を。原題は“THE BIG SWITCH”です。

knj said...

とりあえずBig Switch、買ってみました。ネットワークでつながっているという点で、インターネットと電力をアナロジーで分析する視点は面白いですね。

髙林 祐也 said...

また感想聞かせてください。よかったらblogででも。電力配電とのアナロジーで、今日のクラウド化が語られる前半と、それによって、社会や人間に何が起こるかが(どちらかというと否定的に)語られる後半部分、それぞれで一冊の本になりそうなくらい読み応えがあり、両方とも非常に面白かったです。僕はさぼって日本語で読んじゃいましたが(笑)