Monday, October 27, 2008

"Hot, Flat, and Crowded" #2

今日もFriedmanの新刊"Hot, Flat, and Crowded"について書きます。「正直興味なし…」という方、すいませんが、もう一日、お付き合いを。

1.American, Journalistic, and Optimistic
この本をFriedman流に3つの言葉で表してみました。

◆American
著者Friedmanは、今月1日に行われた講演(こちらでそのビデオを見れます)の冒頭で"This book is a masquerade as a book about energy and environment, but really it's just a masquerade. This book is actually a bool about America."とはっきり言っています。読んでいてもまさにその通りで、決して、世界の現状を客観的に考察した本ではありません。あくまで、アメリカ主眼で、「アメリカには何ができるか」、「アメリカは何をすべきか」について書かれた本です。

そこには、当然ながら、アメリカ人お決まりの「アメリカこそが世界をリードすべき国だ!!!」という純粋な(幼稚な?)視点が色濃く入っています。そんなもんだと思って読まないと、アメリカ人以外には正直きついと思います。(少なくともドイツ人は「きつい」と言ってました。)

◆Journalistic
これは、この著者の昔からの手法ですが、「こんなことがあった」「あんなことがあった」というエピソードの開陳が、延々繰り返されます。中には「このエピソードから、この結論を引き出すのはいくらなんでも無理があるだろう」というところもありますし、また、そうでなくても、ひとつひとつの議論にそれほどの深みがなかったりします。読者に深く考えさせるというよりは、むしろ、面白ろエピソードとキャッチーなキーワードの連発で、読者の印象に訴えかける感じの筆致。この点も好き好きがかなり分かれるところだと思います。

ただ、最後の2節は、それなりに読ませる内容でしたけどね。

◆Optimistic
10月20日の記事で、授業中にアメリカ人の女の子が「こんな本はgreatでも何でもない。ただ"Go! Go!!"って言ってるチアリーダーみたいなもんよ。」と言ったと書きましたが、確かにそういう面はあります。というか、おおいにあります。

なんでそうなるかと言うと、もちろん、このおっさんの生まれ持った性格もあるんでしょうが、確信犯的にやってる部分もかなりあると思います。

この本の一番最後、411頁に、こんなフレーズがあります。
I guess I would call myeself a sober optimist. ... If you are not sober about the scale of the challenge, then you are not paying attention. But if you are not an optimist, you have no chance of generating the kind of mass movement needed to achieve the needed scale.
つまり、「度を越して(not sober)楽観的になっちゃうと、スケール感を見失い、温暖化の解決なんて屁でもないと錯覚してしまうけども、そもそも楽観的でなければ、行動を起こそうという気にさえなれない」ということを言ってるんですが、このスタンスは僕的にはかなりagreeです。

2.Friedmanの基本戦略
この本での、Friedmanの基本戦略をまとめておきます。昨日の記事でも書いたとおり、「Friedmanの基本戦略」は「次の大統領の基本戦略」と「≒」である可能性が高いんじゃないかと、個人的には思ってます。

戦略の目標は、
① Clean Energy Systemを構築すること。
② ①を通して、アメリカが再び世界をリードすること。

そのためにはどうすればいいか?答えは簡単;普通にやればいい。敢えて「環境のため」、「地球のため」といった概念を持ち出さなくとも、「非民主主義国家へのエネルギー依存からの脱却」、「新たな雇用(grennjob)の創造」という旧来型政策の果実だけで、十分にpayする。

なぜそれができないのか?政治家が石油・石炭業界に操られているから。たとえば、従来型エネルギーに比べ、新エネ・省エネに向けられている補助金はあまりにも少ない。この状況を変えるには、市民権運動のときのように、国民が真剣に声を上げないといけない。国民の後押しがあれば、大統領は、議会の反対を抑えて強力なリーダーシップを発揮することができる。

3.最後の2節
最後の2節(第16節と第17節)は、上にも書いたとおり、なかなか読みごたえがありました。"America"という章名でくくられたこの2節では、「なぜアメリカは変われないのか」、「どうすれば変われるのか」ということについて、著者の考えが展開されています。Americanなこの本の中でも、章のタイトルどおり、とりわけAmericanなこの部分ですが、ここでの著者のAmerica論は、お決まりの"manifest destiny"的視点とは少し趣が違います。

「モノが決まらず、機動性に欠く」、「めいめいが特殊利益を主張する」といった、アメリカ議会民主主義の欠点を率直に認めた上で、"非民主主義国家"中国を引き合いに出し、「一日だけ、アメリカが中国になれれば…(いろんなことを決断できるのに)」とまで言ってのけています。(まぁ、中国に対する強烈な皮肉ではありますが。)

もちろんそれはきつい冗談であって、著者は本気でそんなことを思ってるわけではありません。でも、アメリカ人にしては(?)かなり真面目に民主主義制度の欠点を考察しているのも事実。その上で出された彼の答え(国民の真剣な声→議会の抵抗を抑止→大統領の強力なリーダーシップ という解しかない!!)には、それなりの説得力がありました。

4.Friedman戦略のナゾ
Friedmanの戦略には、3点ほど、「ようわからんなぁ」というところがあります。具体的には、
① greenjobってそもそもなに?
② (伝統的に「大きな政府」を嫌うこの国にあって)財政出動による雇用創出政策が支持されうるのか?
③ ②支持されるとしても、この金融危機のさなかに財源は足りるの?
の3点。

これらについては、時間があればまたじっくり検討してみたいと思いますが、今の時点でわかる(思う)範囲で書いておくと、

①・・・この本の中では、ソーラーパネルの取り付け工事工が例として紹介されてました。そういう建築系の仕事が多いんじゃないかと思います。(建築労働は工場労働と違って、外国に雇用を持ってかれないという意味でも利点。)
②・・・環境・エネルギーの議論とは関係なく、昨今の金融危機を背景に、現代版の「ニューディール政策」を期待する声があるのは事実。その声が高まれば、大恐慌の後にFDRが大統領になったときと同様、「これは異常事態だ」との認識の下、アメリカでも「大きな政府」が受け入れられる可能性は十分あると思います。逆に言えば、今後、景気が悪化して、失業問題が深刻になればなるほど、この政策は行いやすくなるんじゃないか、とも。
③・・・これは答えの出ない議論ですが、最終的に「ドルの暴落さえ起こらなければいい」と割り切ってしまえば、かなりの規模まで財政出動できてしまうんじゃないかと思います。どこまで無理をできるかは、11/15の金融サミットの結果次第かもしれません。

5.読むべきか、読まざるべきか
最後に、お忙しいこのブログの読者の皆様への、独断と偏見に満ちたアドバイスを。

とりあえずこの本の日本語版が出るのかどうかは知りませんが、もし出たとしても、著者の前二著ほどは、バカ売れしないんじゃないかと思います。

ただ、環境屋さんの皆さん、特にアメリカ人とお付き合いされる可能性のある方は、「だいたいこういうことが書かれてある」というエッセンスくらいは押さえておかれる方がいいんじゃないかと思います。話のネタとして。

はっきり言って冗長なので、全部を読むことはお勧めしません。が、上にも書いたとおり、最後の2節は読んで損はないと思います。あと、その後ろについてる"Acknoledgement(謝辞)"も。ここで名前の挙がってる人たちは、年明け以降、政権に近い立場で活躍し始める可能性大だと思います。どんな人の名前が挙がってるか、チェックしておくのも面白いんじゃないでしょうか?


以上、二日にわたってお送りした、Friedmanの新著"Hot, Flat, and Crowded"についての記事でした。
my home, Syracuse, Oct 27, 25:11

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