Monday, April 20, 2009

A Question of Balance #2

昨日、このブログで、「サクラが咲いた」と書いて喜んでみたと思ったら、今日は早速、花冷え。ただいまの気温、摂氏3度。昨日のエントリーを読んで、「これならシラキュースに行ってやってもいいかも」と思った皆さん、もう一度考え直してみた方がいいかも知れません(ウソ)。

今日は午後一の授業で、Nordhaus本の読書感想文を発表。昨日はあまりに眠かったので、今朝、プレゼン準備をすることにしていたのだが、若干、思っていたより長めに寝てしまったこともあり、予想通り、追い込まれる。ギリギリまで配布資料と発表原稿作っていたら、普段、20分かけて登校するところ、授業開始の15分前に家を出る羽目に。と、文字通り、last- minuteな感じではあったが、なんとかプレゼンも終了し、これで一つ、学期末のハードルを突破。めでたしめでたし。
  
というわけで、今日は、"A Question of Balance" by W. Nordhaus の感想文2回目をお送りします。(1回目はこちらを。)

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前回の続きで「割引率」のお話から。

Stern案とNordhaus案で、モデリングの結果に大きな違いが出る最大の原因は、割引率の設定の仕方にある、というところまでは前回書いた。では、この「割引率」、モデルを回す人たちはどうやって決めているのか。
  
どうやら、いろんな考え方があるらしく、ちょっとネットで検索してみたくらいでは「定説」らしきものにたどり着けない。この点は改めてお勉強が必要。賢者の皆さん、教材の推薦、お願いします。
   
というわけで、今日は、Nordhaus君が、割引率についてどう考えているかという点に限って説明することにする。それが正しいか正しくないかの判断は、ここではしません(てか、僕の能力ではできません)。  
   
まず、彼自身のモデル(DICE-2007 model)の中で用いている割引率について、彼は、
The approach in the DICE model is to use the estimated market return on capital as the discount rate. The estimated discount rate in the model averages 4 percent per year over the next century.
と述べている。年率4%。Stern Revieの割引率は0.1%/yearなので、その差は確かに大きい。100年後の1億円の現在価値が、Sternモデルでは9000万円以上になるのに対して、Nordhausモデルでは2000万円ちょっとにしかならないということだ。
 
Nordhaus君、割引率一般については、「二つの互いに関係する、ときに混同されがちな概念を含む(“Discounting involves two related and often confused concepts”)」ものだとした上で、それぞれの概念を、以下のように説明している。(p.169-170)
 
1.Real return of capital…財についての割引率(“the idea of a discount rate on goods”)。市場データから実測値を得ることが可能。
2.Pure rate of social time preference(or time discount rate)…後続世代の幸福(welfare)を、現代世代と比べてどの程度重視するか。この値がゼロならば、後続世代を、現代世代と完全に同等に扱う、という意味。

real return of capitalについては、Nordhausは「一般的に6%あたりをベンチマークとして使う」と言っている(p.170)ので、その値と、彼の割引率(=4%)とのギャップ(=約2%)が、time discount rateということなんだろう(←この点、明記はされていない)。一方で、Stern Reviewの年率0.1%という割引率は、(Nordhausのtermを使って説明すれば、)極めてゼロに近いtime discount rateを想定することによってもたらされている、ということになるんだろう。
  
time discount rateは、実証的・経験的に求められるものでもなければ、効率性の観点から理論的に得られるような数字でもなく、この値をどう決めるかは、ethicsやphilosophyの世界のお話である。構成要素の一つであるtime discount rateがそうやって決まってくるということは、結局のところ、割引率(discounting rate)全体も、「世代間公平をどう考えるか」という、倫理的・哲学的な論争からは逃れられないということだ。

それゆえ、Nordhausも、割引率についてはいろんな考え方がありうる(“alternative ethical perspective are possible”)としている(p.177)。つまり、Sternの極端に低い割引率も、Nordhausに言わせれば「正しい可能性はある」ということになるはず。だが、割引率設定を巡るSternのやり方については、以下の2つの理由から批判をしている。
  1. 常識からはかけ離れた値を設定しているのにもかかわらず、なぜその値を選ぶかについてのまともな説明がなされていない。
  2. 割引率については、本質的に、いろんな考え方がありうる(主観を排除しきれない)のにもかかわらず、割引率が他の値(0.1%以外)をとる可能性をまったく考慮していない。
もちろん、これは、Nordhausの見方であって、SternにはSternの反論があるんだろうと思う。本当は、両方ともの著作を読んでから書くべきなのかも知れないけれど、あくまで個人のunofficialなブログだということで、この点は、ご容赦いただきたい。

というわけで、今日の書き込みはここまで。予想通りではあったが、いざ書こうとすると、細かいところできちんと理解できていないところがすごく多いことに気づかされる(と言いつつ、レポートはもう出しちゃったんだけど。笑)。上の記述は、いちおう、自分で理解できていると思える範囲をぎりぎり出るか出ないかくらいのところで書いたつもりだが、もし、間違いを見つけられたら、ご連絡いただきたい。

次回(第3部)で、Nordhausシリーズは、とりあえず一旦終了にしたいと思っています。
My home, Syracuse, Apr 20, 27:00

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