Thursday, April 9, 2009

Germany's policy of containment

6日付のFinancial Timesの記事が、最近のドイツの不況ぶりを報じている。右のグラフからも見てとれるように、1月のIndustrial Output(鉱工業生産高)は前年同月比で20%以上も落ち込んだらしい。
  
同記事によると、昨年のドイツの輸出高はGDPの47%強を占めており、日本(20%弱)、米国(約13%)と比べても突出して高い。しかもその40%以上が"investment goods"(投資財。具体的には、機械設備、建設機械など)で占められているとあって、世界経済減速の余波が直撃。先週発表のOECD予測では、今年(2009年)のGDPは、5.3%縮小の見込みとされている。(ちなみに、日本の予測値は6.6%の縮小。)
  
つまり、ドイツ経済も、日本経済と同様(あるいは、それ以上に)外需偏重型であり、それ故に、去年の秋以降は、これまた日本と同様のメカニズムで、世界不況のあおりをまともに食らっていると言えそうだ。ここまでは日独両国でよく似通っているわけだが、それに対する処方箋はというと、大きく違っている。同記事によると、
Her (=Merkel's) strategy seems clear – sit out the crisis, preserving industrial strength as much as possible, and await the eventual upturn. The reliance on exports “is not something you can change in two years”, Ms Merkel said. “It is not something we even want to change.”
とのこと。Merkel率いるドイツは、某国首相にちくちく言われながらも(…)、大規模な景気対策には走らず、"sit out the crisis"(危機を耐え忍ぶ)しているわけだ。記事は、発言の抜書きなので、Merkelの真意がどこまで正確に表現されているかわからないが、本当にこういうトーンだったんだとしたら、ある意味、相当腹が座ってらっしゃるなぁと思う。
  
アメリカもイギリスも日本も中国も、大規模な財政出動に躍起になる中、なんでドイツがこういう作戦に出るのかというと、「過去のハイパーインフレの経験から、ドイツ政府は、財政政策の拡大に関して他国と比べ物にならないくらい慎重」であることが原因だと、記者氏は述べている。また、ドイツ政府の債務残高は、EUの平均を下回っているにも関わらず、ドイツ国民の多くは、「もう無理。すでに過剰債務」と思っている、とも。
(と言いつつ、ちょうど今日、新車買替促進補助の予算を、1.5 billion ユーロから5.0 billion ユーロ(約6,600億円)に拡大する、というニュースが出ていた。)
  
ドイツ政府は、あくまで「外需主導で頑張るもんね」というスタンスを維持しているわけだが、記事の最後の部分では、van Ark とかいうNY在住のエコノミストの言葉を引きつつ、
To generate better domestic demand, the focus should be on creating productive jobs in service sectors that sell locally, Mr van Ark says. Dismantling obstacles to competition in services would encourage greater efficiency, higher productivity and lower prices that benefited consumers and led to higher real wages. “That is the sort of dynamic upward spiral that an economy needs to keep growing.”
と書かれている。僕も、2月25日のエントリー4月1日のエントリーで触れたとおり、結局のところ、議論は「いかにして外需主導モデルを卒業するか」というところに行きつくわけだ。

ドイツ政府は「卒業なんてしないよ」というスタンス。日本はと言えば、目下、ドイツと違って積極的な財政出動を行っているわけだが、これは、基本的に足下の内需拡大のための政策であって、産業構造そのものを内需主導型に変えるための政策ではない(と僕は思う)。つまり、日本も、中長期的に見れば、この問題から逃れられるわけでも何でもない。。
  
もう一つ、この記事を読んで思ったのは、アメリカやスウェーデンの経済政策を勉強するのもいいが、日本人はもっとドイツのことを研究すべきではないかということ。おそらく、経済的な意味での国の成り立ちが日本に一番近いのはドイツだろう。彼の国が、常に日本の先を行っているわけではないので、一方的に「先生」とするわけにはいかないが、互いに研究しあえば、(夢物語の事例としてではなく)現実的に参考にできる事例がたくさん見つかるのではないだろうか。それをするには、英語ソースでのドイツの情報が圧倒的に不足しているのが問題なんだけど…(言うまでもなく、日本に関する情報も同様。)。
My home, Syracuse, Apr 8, 26:20

1 comment:

Yuki said...

「内需拡大のための政策であって、産業構造そのものを内需主導型に変えるための政策ではない」僕も同意です。

内需主導型の産業構造を形作る上では、やはり国内の農林水産業を土台として、広義での環境関連の科学技術や管理システムの構築・投資が、市場の再生と自給、効率性改善の観点から国内消費を質量共に密にしていく有効な手段だとしばしば思います。

例えば、アメリカとの貿易関係においても量的な変化はさして見られないか、収入が多少減少することで摩擦を緩和する意味もあろうかと思います。当然アメリカ側にもある程度の質的な変化を要求することになります。しかしレスターブラウンが著書フード・セキュリティーでも指摘する通り、食料・環境・産業など様々な面での「国家安全保障」の観点から国内外で交渉していけば、現実味はあるように思うのですが。

ただ、アメリカとの貿易・軍事依存を合わせて、政治的にどう解消していくかは疑問の残るところです。ご指摘されたドイツなどの他国と参考にし合い、また上記の考察材料を全体的に含めて協力し合えば、この面においても何らかの打開策は生まれるかもしれません。

いずれにせよ日本はこの状況からいつ抜け出すのか、中長期的なヴィジョンが必要だと思います。今の政権にはそのような視点があるのでしょうか。僕には謎ですね。