Thursday, April 15, 2010

thesis draft #3

祝、Sabers、playoff初戦勝利。というわけで、心おきなく第3periodです。

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RPS制度とtransmissionの増設に関する同様の問題に対し、具体的な対策を講じている事例をテキサス州に見ることができる。テキサスは、RPS制度によって、これまでにもっとも大量の再生可能エネルギー(RE)発電(capacity base)を導入してきた州であり、NY州と同様、その大半は、風力発電によって賄われている。

テキサス州とNY州は、風力発電の適地と電力の消費地との間に地域的偏りがあり(テキサスの場合、風力適地は州西部、電力消費地は州東部)、両地域を結ぶtransmissionのcapacityが限られているという点で、非常に良く似た地理的条件を備えている。RPSによるRE発電の導入でNYに先んじたテキサスでは、transmissionのcongestion問題にも、NYより数年早くに直面していた。この問題に対処するため、同州議会は、2005年、以下の事項を主な内容とする “Senate Bill 20”を制定した;
  1. Public Utility Commission of Texas(PUCT)が「高いRE発電の開発可能性を有する地域(“areas with high renewable energy resource potential”)」を “Competitive Renewable Energy Zones (CREZ)”に指定する。指定に当たっては、各地域におけるRE発電事業候補者のfinancial commitmentの程度も勘案する(実際には5つのCREZsを指定)。 
  2. PUCTが、CREZsと電力消費地とを結ぶtransmission網の建設シナリオを複数策定する(実際には4つのシナリオを策定)。 
  3. ERCOT (Electric Reliability Council of Texas) が各シナリオの建設コストを試算する。 
  4. ERCOTの試算に基づきPUCTがtransmission網の拡張計画を決定する。 
  5. 同計画に含まれる各transmissionの事業主を、一定の基準を満たす事業者の中からPUCTが選定する。 
  6. 選定を受けたtransmission事業者は、transmission拡張計画の詳細を固め、PUCTからの最終承認を受ける(“シナリオ”の時点では、建設計画の詳細まで完全に固められているわけではない)。 
  7. このプログラムによるtransmissionの増設コストは、sub-areaに関係なく、ERCOT管轄地域全域のratepayerによって、一律に負担される。 
なお、ここで出てくるPUCT及びERCOTは、それぞれ、NY州におけるPublic Service Commission (PSC)、New York Independent System Operator (NYISO)に相当する。

2010年4月現在では、transmission事業者の選定(上記5.)までしか進んでいないため、同政策の成否を今の時点で評価するのは時期尚早である。非常に大胆な政府介入政策であるため、今後、何らかの“government failure”的非効率が発生する可能性はもちろん否定できず、プラス・マイナス両面を加味した最終的な評価を下すには、さらに数年、結果を見守る必要がある。

しかし、この政策が、――“government failure”という副作用をどの程度伴うかはともかくとして――先に挙げた送電サービス市場の、諸market failure要因を克服する手立てとなっているということは少なくとも言えるだろう。そういった意味において、RE発電の導入増に伴うtransmission不足に対処する政策としては、(少なくとも米国内で)もっとも先進的な取組であるということもできる。

では、今後、ますます増加する(と予想される)遠隔地RE発電施設からの電力供給により、transmissionのcapacity不足の深刻化が懸念されるNY州に、このCREZ政策を導入しようとした場合、どのような点が課題となるであろうか。導入に当たり、大きなchallengeとなりそうな二点を、以下、指摘しておきたい。

一点目は、この政策によって発生するtransmission建設コストの費用負担の問題である。先にも述べたとおり、NY州では、transmission建設コストの負担に関して、伝統的に、“beneficiary pays approach”の考え方が取られてきた。一方、テキサスのCREZ政策の肝は、transmission建設の費用負担を「域内一律」とした点にある。それによって、(上流-下流の費用負担論争に左右されることなく)純粋に効率性の観点から敷設シナリオを検討できる環境を確保できたという実務的メリットに加え、RE発電普及による利益(温室効果ガス排出の削減、energy securityの強化、etc.)は、特定の地域(発電地域and/or電力消費地域)にのみ帰属するものではなく、域内のratepayerに一様に帰属するものであるという根本的な問題構造の面から見ても、この費用回収方法は、理にかなっていると言える。

そもそも(RPSとの関連以前の問題として)、transmissionについては、競争的な電力市場を“可能にするもの(enabler)”と捉え、それ自体は競争政策の埒外に置くべき(したがって、政府が、その供給に積極的に関与するべき)とする考え方と、NY州のように、transmission自体も発電施設の競合財と捉え、競争政策の中で同列に扱うべしとする考え方とがある。それら二つの考え方の優劣を巡る議論はこの論文の射程を越えているが、双方の考え方に長所・短所があるということ、また、それらのうちどちらを選ぶかは、電力政策上、RE導入促進に関わる問題よりも、より高次に位置づけられるべき政策判断であるということが言える。

したがって、ここでNY州の“beneficiary pays approach”を非難する意図はまったくないし、また、RE導入促進との相性が悪いという事実だけを以て、NY州が、そのapproachを根本的に見直さなければならない必然性もない。ただ、“beneficiary pays approach”の方針を全く曲げずにCREZ政策を単純に「接ぎ木」することはできないというのもまた事実であろう。このため、NY州にCREZ政策を導入するとならば、費用負担に関する考え方の違いから生まれる「矛盾」をどのように解消するかが一つの大きな課題となると考えられる。

もう一つの課題は、組織の構造と意思決定に関するものである。

NY州内の電力系統の運用を統括するNYISOは、電力の安定供給と経済運用のみをミッションとする機関であり、RE発電の導入促進に自発的に協力しなければならない立場にはない。それどころか、現行のルールの下で、NYISOが、RE発電施設に有利なようにtransmissionを敷設する計画を支援したとすれば、そのことは、彼ら本来のミッションである経済運用との間で支障を来しかねない。

一方、RPSプログラムの執行に責任を負うNYSERDAの方は、RPSプログラムとの関連においては、制度の執行にのみ責任を負う機関であるため――別途、研究機関としての役割も担っているが――、送電網の敷設という(少なくとも現行制度の下では)RPS制度の完全に外側にある事柄に対して、何らかの積極的働きかけを行いうる立場にはない。

これら二機関を管轄下に置き、“order”という形でルールを制定する権限を有しているのは州政府の一セクションであるPSCである。彼らは、RE発電の導入促進とtransmissionの拡張という、両方の課題を同時に視野に入れられる立場にあるわけだが、RPSの目標値の引き上げを決めた“Order Establishing New RPS Goal and Resolving Main Tier Issues”(2009年決定)の中では、RPSの今後にまつわるいくつかの懸念事項が論じられているものの、transmissionのcongestion問題については、一切の言及がなく、そもそも、彼らがこの件に問題意識を持てているのかどうかさえ定かではない。

このように、関連三機関の立場・言動を見渡してみると、“RE発電の導入促進に伴うtransmissionの不足”という形で、統合的にこの問題を捉えられている機関が、NY州政府内には今のところ存在しない可能性がある。テキサス同様、最終的には、立法府による行動が必要だとしても、日々の執行を司る――それゆえ、問題発見に一番近い場所にいるはずの――担当者の間でさえ、十分な問題把握・問題理解が醸成されていないとならば、元来、専門家以外の者による理解が難しいこの問題が、世間や州議会議員の耳目を集める可能性は、非常に低いのではないかと察せられる。このことから、NY州における、現在の関連組織間の責任分担構造が、CREZ政策をNY州に導入しようとするならば、二つ目の大きなチャレンジになるのではないかと考えられる。
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この後に、多少、implication的なものをくっ付けてconcludeしようかというのが、とりあえず今の時点での全体構想。実際書いてみて、最後の方が、定性的というか説明的というか、要するにグダグダだということがよくわかりました…sigh

テキサスの事例を引き合いに出してくるところまでは良いとして、そのあと、どういう方向に持っていくか。今の案のまま、頑張ってロジックを詰めるか、あきらめて別の展開を用意するか。。。
Maxwell school, Syracuse, Apr 15, 22:24

1 comment:

久々に私~ said...

難しいとこなんですけど、たぶん、現状では報告書になってると思われます。どこに境目があるのか、って訊かれると難しいんだけどね・・・。

まあもちろん、プロの(?)研究者さんでも、Case studyと事例報告を取り違えてる人もありますが。

現在、見るに、十分な情報量を持っていると思うんですけど、調べたこと全てをアリバイ的に書くのは報告書です。論文として書く場合、自分の理論・主張をサポートするために、事例を証拠として挿入する、ということになります。

なので、調べたこと、読んだことを見せようとする必要はなく、自分の核の議論をサポートするのに必要なものだけ使っていく、のが、学術論文の境目だと思われます。

というわけで、以下の質問にBayaさんの論文で答えてみてください。
1)この論文は何を解明しようとしているのか?言い換えれば、既存の理論では説明しきれてない事象があるとして、それはいったい何なのか? (この辺が文献レビューの役割です)
2)1)を説明したとして、学者さんの世界(=理論的)にどんな貢献があるのか?英語で言えば、読者からwhy do I care?と訊かれたときにどう答えるか。読者は、もちろん、環境政策学者さんたち(たぶん)。

要は、現在の学術的議論では答え切れていない事象(=problem)に対して、Bayaさんが理論的にどう貢献するか(solution = contribution)ってな感じですね。それがきれいに書ければ論文っぽくなると思います。