今日開幕のNHL Playoffをちら見してリフレッシュ。こんな話、どうでもいいと思いますが、今日あった東地区の二試合は、二戦とも、下位シードのチームが上位シードのチームを食う結果に。この流れが、明日のSabersの試合(Sabers=第3シード。第6シードのボストンと対戦)に乗り移らないことを祈るばかり。。
さて、リフレッシュも終えたところでthesis draft後半戦。
======================
こういった不都合の原因となりうる送電サービス供給量の硬直性は、同市場に見られる諸々の“market failure”要因によって説明できる。
まず何より、transmission事業は、「初期投資(capital cost)が莫大で、規模の経済(economies of scale)が働きやすい」という、自然独占(natural monopoly)の典型的条件を兼ね備えている。このため、新規参入が難しく、NY州においては、電力自由化以前からの“legacy transmission owners” 8社による、事実上の寡占状態となっている。これらの既存transmission事業者にとっては、transmission capacityの不足によってgrid内の二地点間で電力単価(Locational Based Marginal Price (LBMP))の開きが生じていたとしても――congestionが一切なければ、送電ロスのrecovery費用を除いた電力単価はgrid内全域で等しくなるはず――、その差をcongestion chargeとして徴収できるので、送電サービスの供給不足が、transmissionの積極的な増設を促すことにはならない。
公共財(public goods)的性質を色濃く持つが故の、費用負担の問題も深刻。NY州では、「transmissionの建設コストは当該transmissionの新設によって恩恵を受ける者=beneficiariesによって負担さるべき」とする“beneficiary pays approach”が取られているが、そもそも、beneficiariesの特定が非常に困難。遠隔地の電力を安く使えるようになるとは言え、transmission建設コストの全額負担は割に合わないと考えるdownstateと、自分たちが恩恵を受けるわけではないのに(一部とはいえ)transmission建設コストを負担させられるのは嫌だと主張するupstateの対立に、その中間地域におけるsiting(立地)問題が絡み、その必要性自体は広く認識されていても、具体的なプロジェクトとなると、なかなか話がまとまらないといった状況がNY州では長らく続いている。
Enforcement costsの問題もある。Transmission ownerにしてみれば、発電事業者が約束通りに新規発電所の建設及び送電サービスの利用を行ってくれなければ、新規transmissionの建設コストを回収できず、一方、発電事業者にしてみれば、transmission ownerが約束通りにtransmissionを建設してくれなければ、プラン通りの発電事業を行えないといった状況が想定されうる。このような場合、互いに相手方の約束履行の確証が得られなければ、双方ともに事業の実施に踏み切ることはできず、結局、事業の実施が見送られる事態に陥りがちである。
規制が送電サービスの供給を妨げている可能性もある。NY州においては、安定供給の面からその必要性が認められる場合を除き、新規transmissionの建設の認可を受けるためには、①“strict cost-benefit tests”をクリアするとともに、②州内load serving entities(LSEs・配電事業者)の80%以上からの賛同を得なければならないことになっている。この仕組みは、理論的には、ratepayerがtransmissionの過剰投資に伴うコストを負担させられる事態を防ぐために設けられているものであるが、LSEsの多くがlegacy transmission ownersの子会社であるという現実を考えると、既存transmission事業者を過度に利するかたちで機能している可能性がある。
以上は、RPS制度の導入如何にかかわらず、NY州の送電サービス市場が本来的に抱えている“market failure”であるが、これに加え、RPSとの関連では、externality(外部不経済)の問題も指摘されうる。そもそも、RPS制度は、既存の電力市場が「温室効果ガスの排出」や「国外産エネルギーへの依存に伴う安全保障の脆弱化」といった「外部不経済」を適切に評価しきれていないという反省に立ち、それらを内部化(internalize)するために導入されている制度であるが、transmission建設認可の際の、上記“strict cost-benefit tests”では、そういった外部性がまったく考慮されず、explicitlyに示されるbenefitのみが勘案の対象とされる。このため、ある地域へのtransmissionの延長が、新規RE発電施設の導入を促すと予想されるとしても、それに伴う社会的価値は考慮の対象とはならないので、そういったtransmission建設案が“strict cost-benefit tests”に耐えられる可能性は低いままとなる。(to be continued.)
まず何より、transmission事業は、「初期投資(capital cost)が莫大で、規模の経済(economies of scale)が働きやすい」という、自然独占(natural monopoly)の典型的条件を兼ね備えている。このため、新規参入が難しく、NY州においては、電力自由化以前からの“legacy transmission owners” 8社による、事実上の寡占状態となっている。これらの既存transmission事業者にとっては、transmission capacityの不足によってgrid内の二地点間で電力単価(Locational Based Marginal Price (LBMP))の開きが生じていたとしても――congestionが一切なければ、送電ロスのrecovery費用を除いた電力単価はgrid内全域で等しくなるはず――、その差をcongestion chargeとして徴収できるので、送電サービスの供給不足が、transmissionの積極的な増設を促すことにはならない。
公共財(public goods)的性質を色濃く持つが故の、費用負担の問題も深刻。NY州では、「transmissionの建設コストは当該transmissionの新設によって恩恵を受ける者=beneficiariesによって負担さるべき」とする“beneficiary pays approach”が取られているが、そもそも、beneficiariesの特定が非常に困難。遠隔地の電力を安く使えるようになるとは言え、transmission建設コストの全額負担は割に合わないと考えるdownstateと、自分たちが恩恵を受けるわけではないのに(一部とはいえ)transmission建設コストを負担させられるのは嫌だと主張するupstateの対立に、その中間地域におけるsiting(立地)問題が絡み、その必要性自体は広く認識されていても、具体的なプロジェクトとなると、なかなか話がまとまらないといった状況がNY州では長らく続いている。
Enforcement costsの問題もある。Transmission ownerにしてみれば、発電事業者が約束通りに新規発電所の建設及び送電サービスの利用を行ってくれなければ、新規transmissionの建設コストを回収できず、一方、発電事業者にしてみれば、transmission ownerが約束通りにtransmissionを建設してくれなければ、プラン通りの発電事業を行えないといった状況が想定されうる。このような場合、互いに相手方の約束履行の確証が得られなければ、双方ともに事業の実施に踏み切ることはできず、結局、事業の実施が見送られる事態に陥りがちである。
規制が送電サービスの供給を妨げている可能性もある。NY州においては、安定供給の面からその必要性が認められる場合を除き、新規transmissionの建設の認可を受けるためには、①“strict cost-benefit tests”をクリアするとともに、②州内load serving entities(LSEs・配電事業者)の80%以上からの賛同を得なければならないことになっている。この仕組みは、理論的には、ratepayerがtransmissionの過剰投資に伴うコストを負担させられる事態を防ぐために設けられているものであるが、LSEsの多くがlegacy transmission ownersの子会社であるという現実を考えると、既存transmission事業者を過度に利するかたちで機能している可能性がある。
以上は、RPS制度の導入如何にかかわらず、NY州の送電サービス市場が本来的に抱えている“market failure”であるが、これに加え、RPSとの関連では、externality(外部不経済)の問題も指摘されうる。そもそも、RPS制度は、既存の電力市場が「温室効果ガスの排出」や「国外産エネルギーへの依存に伴う安全保障の脆弱化」といった「外部不経済」を適切に評価しきれていないという反省に立ち、それらを内部化(internalize)するために導入されている制度であるが、transmission建設認可の際の、上記“strict cost-benefit tests”では、そういった外部性がまったく考慮されず、explicitlyに示されるbenefitのみが勘案の対象とされる。このため、ある地域へのtransmissionの延長が、新規RE発電施設の導入を促すと予想されるとしても、それに伴う社会的価値は考慮の対象とはならないので、そういったtransmission建設案が“strict cost-benefit tests”に耐えられる可能性は低いままとなる。(to be continued.)
======================
「後半」のつもりでしたが、この先、もうしばらくかかりそうなので、第3ピリオドは、また稿を改めて。
Maxwell School, Syracuse, Apr 14, 24:29
2 comments:
お疲れ様です。細かいですが、経済学的にちょっと気になった部分を。
供給曲線が、ある時点でcapacity constraintに達するために、そこからは垂直になるというのはおっしゃるとおりだと思います。
需要曲線が垂直な部分と交わるときの価格はMCよりも高くなります。このMCと価格の差はQuasi-rentであって、Congestion chargeとは別物ではないかと思います。つまり、Congestion chargeはExternalityを解消するためのものですが、Quasi-rentは効率的な市場でも(Externalityがなくても)発生します。
問題は、Quasi-rentが発生しているのに、なぜ追加投資が起きないかというところはご指摘の通りです。教科書的には、Rate of return regulationが適用されているであろう送電部分は、Rate baseを増大させるために送電資産への投資を増やすというインセンティブも働くはずです。
このため、追加投資が起きない理由は、Quasi-rentを得るインセンティブの方が、Rate baseを増やして利益を増やすというインセンティブよりも大きいということかと思います。
思いつきで書いたあとに気づいたことなんですが、呼び方の問題として、送電のような規制産業では、Quasi rentを呼ぶのもおかしいかもしれません。高林さんがおっしゃるCongestion chargeが、需給を等しくしているのであれば、それはまさにQuasi-rentではあるのですが、経済学的なCongestion chargeとはいえないと思います。用語の問題ですが。なんて呼ぶのがいいんでしょうね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Congestion_pricing
Post a Comment