Saturday, April 17, 2010

comments on thesis draft #1

先日来の長文垂れ流しエントリ(汗)に、丁寧なコメントをいただき、ありがとうございます。いただいたコメントを元に、目下、アタマをひねっているところです。

おいおい、エントリなりコメント欄なりで、お返事を書かせていただこうと思っていますが、取り急ぎ、knj君からもらった二つのコメントについて、いろいろと考えてみました。一昨日の時点では見えていなかったところが見えてきたりもして、非常にいい勉強になりました。以下、その考察の結果です。また改めて、コメントいただければ幸いです。

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1.「水平部分の価格=MC」と言えるか?
  
No。この点、明示的には書かなかったものの、僕自身も「水平部分の価格=MC」というイメージを持っていたのですが、よく考えてみれば、この部分にも何らかのprice regulationが適用されているはずで、であれば、「水平部分の価格>MC」となっている可能性が高いのではないかと。ちなみに以下、「水平部分の価格」を、Pw/o-c(Price without-congestion)と表記します。
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2.「“Pw/o-cと価格の差”=“congestion charge”」と言えるかどうかかはともかくとして、「“Pw/o-cと価格の差”=“quasi-rent”」と言えるか?
 
Yes/No。まず、1.を踏まえ、MCをPw/o-cに置き換えています。その上で、「“Pw/o-cと価格の差”=“quasi-rent”」と言えるかどうかですが、
  • イ) Pw/o-cにquasi-rentが含まれていなければ「言える」
  • ロ) Pw/o-cにquasi-rentが含まれていれば「言えない」 ⇒ この場合、
    “Pw/o-cと価格の差”=全quasi-rent-(全quasi-rent中、Pw/o-cに含まれている額
ということになるのではないかと。また、ロ)で、かつcongestionの発生していない場合が、knj君の言う『効率的な市場でも(Externalityがなくても)』quasi-rentが発生している状態に当たるのではないかと思います。

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3.Quasi-rentが発生しているのに追加投資が起きないのは異常であると言えるか
 
これはNoではないかと思います。というのは、価格pについて、「AVC<p<AC」という関係が成立していれば、定義上、「quasi-rentは発生しているが、新たな参入を正当化できるだけの利潤を生み出せるほどには価格は高くない」という状態になるはずで、(非常にtheoreticalな議論ですが)現状のNY州送電サービス市場がこの状態にあると想定すれば、追加投資が起きない状態が「異常」だと言うことはできないのではないかと考えます。

詰まる所、「“Pw/o-cと価格の差”=“quasi-rent”」とのknj君の指摘(※ 同じく、MCをPw/o-cに置き換えました)自体は、基本的に(=2.のイの状態を仮定する限りにおいては)その通りだと思うのですが、この価格差の“quasi-rent性”に着目するapproachでは、「なぜ追加投資が起きないか」という問の答えに近付くことは出来ないのではないかと。

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4.「“Pw/o-cと価格の差”=“congestion charge”」と言えるかどうか?

2.で一旦「ともかく」とした問に戻りますが、これについては、少なくとも業界用語としては、Yesではないかと思います。たとえば、American Public Power Association(APPA)という団体の出した2008年の文書の中に、以下のような記述があります(強調付加):
The mechanism that most RTOs use to manage congestion on their transmission systems (where demand for transmission service in a specific direction exceeds the capacity of the needed lines) is to charge a premium, known as a “congestion charge” to transmission customers using those lines. When congestion prevents generation from being delivered to customers in a “constrained zone,” more expensive generation located within the zone may be provided to meet those customers’ demand. The customers’ price reflects the offer submitted by this higher cost generator, even if there are generators offering lower prices in the RTO, but that cannot deliver their power because of the constraints. The difference between the lowest price in the RTO and that charged in the constrained zone is referred to as the “congestion charge.”
この定義は、これまで読んできた、NY州の電力業界に関する論文・著作の中で用いられている“congestion charge”の意味とも合致します。少なくともこの定義に照らせば、先のモデルにおける“Pw/o-cと価格の差”は、まさに“congestion charge”と呼ぶべきものなのではないかと思います。

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5.“Pw/o-cと価格の差”は、経済学的な意味でも“congestion charge”と言えるか?

英語版Wikipediaの“Congestion pricing”の項にある説明を「経済学的な意味での“congestion charge”の定義」とみなして議論しますが、この問も実は、基本的にはYesなのではないかという気がしています。

Wiki同項の記述に見ると(強調付加)、
Congestion pricing is a concept from market economics regarding the use of pricing mechanisms to charge the users of public goods for the negative externalities generated by the peak demand in excess of available supply. Its economic rationale is that, at a price of zero, demand exceeds supply, causing a shortage, and that the shortage should be corrected by charging the equilibrium price rather than shifting it down by increasing the supply.
とあります。ここで、“public goods”=送電サービス、“negative externalities”=transmissionのcongestion、“available supply”=transmissionのcapacityと見れば、上に引用したAPPAの定義で言うところの“congestion charge”と、ここでいうところの“congestion pricing”は矛盾しないのではないかと。

ただ、違いを指摘するとすれば、いわゆる“congestion pricing”の考え方の背景に、
  • 需要家の行動次第で、需要の量は削減可能であり、かつ、
  • 需要を野放しにしたまま、供給の量を増やすことによってcongestionを解消する戦略は、何らかの理由(環境への負荷の増大、公的支出の増大、etc.)により好ましくない
という前提があるのに対して、transmissionの問題については、いずれの前提も完全には成り立たない、という点があるかと。

これらの前提も、“congestion pricing”という考え方に包含されているのだとすれば――たぶんそうだろうと思いますが――業界で使われている“congestion charge”というwordingには、ややミスリーディングな面があるなぁと思います。
my home, Syracuse, Apr 17, 26:38

1 comment:

knj said...

本エントリの2-5についてちょっと考えてみたのですが、Supply curveが垂直になるところは、Externalityが無限大になるところと考えれるわけで、したがってCongestion chargeであると言えると思いました。だから、wordingとして、Congestion chargeは正しいと思います。

その場合、Quasi-rent=Congestion chargeであるとも言えると思います。

本エントリ1の水平部分=MCかという疑問ですが、これはPricingがMarginal Cost Pricingなのか、Average Cost Pricingなのか、Two Part Tariffなのかによって異なると思います。そこはNY州のPricing Regulationを読まれるといいと思います。

取り急ぎ思いついたことを。