正式名称は、New York Independent System Operator。念のために言っておくが、“ISO14000”とか“ISO9000”とかの“ISO”とはまったく関係ない。あちらさんは、“International Organization for Standardization”の略。こちらのISOは、“company”という体裁をとってはいるが、non-profitの機関で、NY州内の①電力系統の運用、②電力市場の運営、③電力網建設の長期計画、④技術の開発・普及(Developing & Deploying )という4つの役割を担っている。電力自由化のタイミングに合わせ、1999年に設立。
建物の外壁には、それが「NYISO」であることを示す表示は一切なされておらず(もちろん、表札なんてご丁寧なものはない)、一旦、行き過ぎてから引き返し、恐るおそる守衛さんに尋ねてみて初めて、そこが目的地であることを確認できた。道路からやや奥まったところに位置するその建物は、小ぶりの要塞かと見紛うほどの堅牢な建造物。聞いてみれば、州内全域をカバーする電力系統のオペレーション業務がこのビルの中で行われているんだとか。マンハッタンへの電力供給も、ここでコントロールされているということを考えると、建物の造りがそれだけdefensiveなのもむべなるかな。
現地では、事前にメールで送っておいた質問リストに沿って、“Senior Communications & Media Relations Specialist”なる肩書きのおじさんから2時間弱の説明を受ける。英語のリスニング能力不足のせいか、はたまた、工学的バックグラウンド知識の不足のせいか――まぁ、両方だろうな…――、おじさんの説明を隅から隅まで理解できたわけではなかったが、関連資料をがっさりいただき、「読んでみてわからんことが出てきたら、またメールで教えてね」とお願いして帰ってくる。まぁ、間違いなくメールするな(笑)
今後、renewable energy(RE)発電の導入量が増えれば――少なくともNY州においては、“風力発電の導入量が増えれば”とほぼ同意である――、RE発電の“産地”(=upstate)から“消費地”(=downstate=NYC+Long Island)に電力を運ぶtransmission(送電線)の不足が、更なるRE導入のボトルネックとなりうる。というか、その問題は既に発現し始めている(参考)。そんな最中、NY州は、昨年12月、RPSの目標値(州内の全電力消費量に占めるRE起源電力の割合)を「2013年までに25%」から「2015年までに30%」に引き上げる決定を行った。
この状況を、「電力網建設の長期計画」を担うNYISOとしてはどう見ているのか――今日のinterviewでは、この点を一番聞きたかったのだが、二時間弱のinterview全体から受けた印象としては(※ 彼が具体的にこう言ったわけではない)、「NYISO的にはあまり深刻には捉えていない」といった感じ。何と言うか、要するに、「他人事」なのだ。
なぜそうなるのか、interviewの最中、或いは、帰りの車の中で、いろいろ考えてみたのだが、察するに、一番の理由は、文字通り「他人事だから」なんだろう。
NYISOの2008 Annual Reportの背表紙には、“The NYISO operates New York’s bulk electricity grid, administers the state’s wholesale electricity markets, and conducts reliability and resource planning for the state’s bulk electricity system.”とある。この一文、(明記はされていないものの)NYISOのstatement of purposesと見て良いと思うのだが、「環境保護」に関する取組には、一切、言及がない。つまり、究極的に言えば、電力の「安定供給」と「経済運用」だけが彼らのmissionなのであって、それ以外のこと(including 環境対策)は、知ったこっちゃない――文字通り「他人事」なのだ。
とは言え、州の政策の中で、「環境保護」(ここで具体的には、「RPS目標値の達成」)が絶対的な目標として位置づけられているのであれば、NYISOとしても、その実現を所与とした上で、「安定供給」と「経済運用」を達成しなければならなくなるわけで、間接的にではあるが、「RPS目標達成」が他人事ではなくなるはず。
しかし、実際には、NY州におけるRPS目標値の位置付けは些か曖昧。日本や、米国の他の多くの州のように、各utility companyに、bindingな達成目標を負わせているわけではなく、州政府の一機関であるNYSERDAが、唯一の買い手として、公募・入札をするという方式なので、目標年次までに目標値に到達しなかったとしても、「政治責任」以上の問題が発生するわけではない。となれば、今後、transmissionの不足に伴うcongestion(混雑)問題の顕在化などにより、REの発・送電単価が上昇した場合、州政府としては、rate payer(電力消費者)への課金額を値上げしてでも目標値の達成にこだわるか(←NYSERDAによる買取の原資は、電力使用量に比例してrate payerに課されるお金で賄われている)、目標達成をあきらめる代わりに課金額の上昇を抑えるか、という選択を迫られるかたちになる。この構造からすれば、RPSの目標値は、「絶対的ではない」と見る方が自然だろう(ましてやこの秋には知事選を控えている)。
つまりその、「環境問題に取り組まないNYISOが怪しからん」と言いたいわけでは全くなくて、transmissionの拡張が、今後のRE普及のカギを握っているのにもかかわらず、transmission敷設計画の任を負うNYISOに「環境保護」のmissionが課されていない、或いは、RPSを取り仕切るNYSERDAにtransmissionを云々する権限が与えられていない、という、現状の責任分担構造そのものに問題があるのではないかと。この辺り、もう少し深めれば、論文の結論部分に持って来れるかなと思ってみたりもしている(甘い?)
ちなみに、帰り際、窓越しに、“operation room”も覗かせていただいた。もちろん、撮影禁止なので、ここで写真で紹介することはできないが、だいたいこれとよく似た感じ。一チーム5人の12時間交代制なんだそう。PCのディスプレイが、一人当たり、7,8枚はあったように思う。さながら、飛行機だか宇宙船だかのコックピット×5セットの様相。とはいえ、暑くも寒くもない今日みたいな日は、発電capacityにも十分余裕があると見え、皆さん、のんびりと仕事をこなしておられた。
Maxwell School, Syracuse, Apr 9, 23:23
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