Friday, February 6, 2009

U.S. - China Cooperation Against Climate Change

昨日「書きます」と予告していたネタを書きます。たぶん長くなるのでご覚悟を。元ネタは2月4日付のNYtimes web版記事"Experts in U.S. and China See a Chance for Cooperation Against Climate Change"

きっと長くなるので、与太話は挟まずにさっそく中身に入りますが、同記事曰く、今後の米中関係では、これまでの4大問題(貿易、北朝鮮、人権、台湾)に加え、「気候変動問題」がトップイシューの一つに加わるであろう旨、米中両国の高官が予測しているとのこと。そのことを裏付けるのが、昨日(5日)発表のレポート“A Roadmap for U.S.-China Cooperation on Energy and Climate Change”。Asia SocietyとPew Centerが共同で取りまとめたこのレポートに関して、両機関は、「ホワイトハウスで重用されることになるだろう」と示唆している(The origins of the report indicate that it could carry weight in the White House. )そうです。

"Roadmap"の関係者リストを見ると、リベラル系大御所の名前がずらり。まず、chairはObama政権のアフガン・パキスタン問題特別代表を務めるHolbrooke氏。Wikipediaによると、アメリカのトップ外交官の一人で、国連大使や国務省次官(アジア担当次官とヨーロッパ担当次官の両方を務めたのはアメリカ史上この人だけ)を歴任したのち、先の選挙ではClinton候補の外交問題顧問を務めた人物。その輝かしい外交経歴もさることながら、ObamaとClintonをつなぐ人物という意味でも、Obama政権の外交を支えるキーパーソンと言えるでしょう。
 
Co-Chairsには、Steven ChuとJohn Thorntonの名前が。Dr. Chuは言わずもがなのDoE長官ですが、もう一人のThorntonさんも、調べてみたらかなりの大御所。今は清華大学教授におさまっていますが、当初は在北京大使という噂もあった人物。米リベラル系最大のシンクタンク、Brookings Instituteの現役Chairman of the Boardでもいらしゃいます。

他にも、Senior AdvisorsにKissingerや、Wal-MartのCEOの名前があったり、ContributorsにHoldren(大統領府科学技術局長官)や、BerkleyのKammenさんの名前があったり、とにかくまぁすごいです。少なくとも民主党サイドの関係者の間では、相当の根回しが済んでるんじゃないかという気がします。

さて、肝心のロードマップの中身はといいますと、だいたいこんな感じ;
  1. 大統領レベルでの会合(presidential summit)
    政権成立後、可及的速やかにトップどうしの会談を実施し、“U.S.-China Partnership on Energy and Climate Change”を取りまとめる。⇒ joint-actionの大まかなプランについて大統領レベルで合意し、その後は、2、3の各会合をパラレルに走らせる。
  2. U.S.-China high-level council
    米中の環境、エネルギー、財政(!!)各分野の高官で以て構成し、定期的に開催。パートナーシップの進捗状況を確認しあうだけでなく、その他の両国共通の懸念事項(具体例は、ongoing multilateral negotiations)についても、この場で協議。
  3. Bilateral Task Forces
    5つの"priority areas"(下記)ごとにタスクフォースを立ち上げ。メンバー構成は、senior government officials と independent experts。
  • Deploying Low-Emissions Coal Technologies (石炭)
  • Improving Energy Efficiency and Conservation (省エネ)
  • Developing an Advanced Electric Grid (送電網)
  • Promoting Renewable Energy (再生可能エネルギー)
  • Quantifying Emissions and Financing Low-Carbon Technologies (排出量の定量的把握とて、低炭素技術へのファイナンシング) 

さて、この政策案をどう見るか。気候変動問題を考える上で、中国への対応が大事だから、というのは紛れもない事実なんですが、その理由だけでここまで大掛かりな政策が動かないだろうというのも事実。要は、アメリカが、この政策を進めることで、どんな得をするかという点が大事なわけです。実際、アメリカは、この政策で何を狙っているのか――。僕なりに、4つくらい考えてみました。

  1. 資源争奪戦の緩和
    アメリカにとっても既に十分な脅威となっている中国の資源爆食問題。これを緩和するためのオプションは、簡単に言えば二つしかなくて、①中国をつぶす(或いは、つぶさないまでも経済発展を抑え込む)か、②ダイエットを手伝ってあげる のどちらか。ただ、中国の圧倒的人口増加と、緊張高まる米ロ関係を考えれば、①のオプションははっきり言って非現実的。というわけで、どうせだったら、中途半端じゃなく、マジで②を追求しようという思惑があるのでは。
  2. 多国間交渉での連携
    米中とも、post-Kyotoを「ガン無視」するのは厳しい状況。特にObamaにとっては、それをやっちゃうと、前政権を批判することで勝ち得てきた国内世論の支持を、一気に失うことにも。両国とも、国際的なpost-Kyotoの議論に参加せざるを得ない以上、排出量1位2位の巨大排出国どうしで共同戦線を張った方がお得、という至極まっとうな計算が働いたのではないか。世界の温室効果ガス排出量の4割以上を占める両国が手を組めば、ほかの国が、米中の反対する議題を会議で押し通すなんて、ほぼ不可能…。(やってもいいけど、得にならない。)
  3. 技術の流用(シナジー効果)
    単に排出量が(アホみたいに)多いというだけでなく、「石炭依存型」「長大な送電網」という点で、エネルギー構造も実は似ている両国。ということは、いま、アメリカが開発・普及に取り組んでいるclean-coal技術(CCSを含む)やsmart-grid技術が緒につけば、今度は中国に持ってって、それを応用できるということ。つまり、アメリカ国内だけでやるよりも、格段に大きいスケールメリットの恩恵を受けられる、というアメリカ産業界にとってはおいしいお話。
  4. 投資先の確保
    言うまでもなく、世の中、金融危機の嵐ですが、「95年から現在までに増えた金融資産が100兆ドル残ってい」て、次なる投資先を探しているはずだ、というのが、『金融大崩壊』で書かれてあった水野和夫氏のご意見。これを前提に考えると、次なる投資の受け皿として、「中国のエネルギーインフラ」なるお皿をしつらえることを考えてるんじゃないかと。

最後の「投資先の確保」に関しては、"Roadmap"のp.43あたりに、気になる記述がありますので、ちょっと長いですが、そのまま引用してみます。

Currently, the vast majority of investment in the energy and other sectors relevant to climate change mitigation (86 percent) comes from the private sector. Overseas Development Assistance (ODA) funds make up less than one percent of investment globally. In generating the additional financial flows needed, the central challenge will be to mobilize modest amounts of public funds to best leverage much larger sums of private capital for investment in a low-carbon energy infrastructure.
There are several examples of financial mechanisms that use public finance from developed countries to support climate change mitigation in developing countries, many that specifically target leveraging private investments.

要は、「気候変動対策のための投資の大半は、民間資金を使って行われているが、その民間投資をいっそう喚起するためには、先進国政府による公的な資金の投入が必要だ」という主張。これを見て思い出したのは、「先進国は、途上国の温暖化対策のためにもっと資金を投じるべきだ」と謳った、昨秋の中国政府の主張

かなり乱暴な推論ではありますが、「アメリカがこの主張に悪乗りする→先進国政府(てか、要は日本??)が「呼び水」資金を拠出する→投資熱が盛り上がってきたところでアメリカの民間資本登場→中国発、エネルギーインフラバブル到来!!」なんて道筋もなくはないんじゃないかと思ってみたり…。まぁ、それはそれで温暖化対策は進むし、いいんじゃん?という考え方もありますが。(え、ない?)

書き始めたらキリがないんですがこの"Roadmap"、知的財産についての記述も結構面白いというか、きな臭いというか、なんというか要するに気になる感じ。またちょっと暇を見つけて、その辺も書きたいと思います。(はぁ、お腹すいた。)

Maxwell School, Syracuse, Feb 6, 19:15

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