Saturday, January 17, 2009

Crossing-the-border Game

青木昌彦氏著『私の履歴書 人生越境ゲーム』を完読。日経新聞『私の履歴書』コーナーの連載記事がベースになっているだけあって、さらさらと読める本でした。

「マルクス主義」と「近経」、「アメリカ」と「日本」、「官」と「学」…。題名どおり、いくつもの「境」を「越」えてきた著者 青木昌彦氏。そのうちいくつかの「越境」は、(青木さんほどハードではないにせよ)僕自身も経験してきたものなので、自分の思いにも照らしつつ、ときどき考え込みながら(笑)、総じて楽しく読ませてもらいました。

中でも、僕的に一番面白かった(というか、考えさせられた)のは、経済産業研究所(RIETI)のくだり。1997年、通商産業研究所(RIETIの前身)の所長に迎えられた著者は、同研究所の独法化を陣頭指揮。単なる形式的な独法化に終わらせず、ブルッキングス研究所にも比肩する理想のシンクタンクを創設しようと研究所のメンバーとともに尽力するも、次第に経産省による"官僚的管理"に呑まれるかたちとなり、理想としていたことができなくなって、結果、2004年、任期を2年残して辞任されます。
 
RIETIや経済産業省がどうのこうのということではなく(というかむしろ、RIETIは少なくとも一時期、国立研究所改革の最先端を走っていたはずですし、経済産業省がそれを後押ししていたのも事実)、一般的な問題として、日本の官庁附属研究所(いま、その多くは、RIETI同様、独立行政法人となっていますが)はどうあるべきなのか、より具体的に言えば、何を目指すべきで、そのために親元官庁とはどのような関係を築くべきなのか、ということについていろいろ考えさせられました。
 
著者は、理想の研究所の要件として以下の3点を挙げています(p.197の記載内容を要約)。

1) 研究員は、親元官庁を越えて広く世に求める。
2) 個々の研究員はそれぞれのイニシアティブと責任を持って研究に専念(別途、サポート・スタッフを雇う。)
3) 理事長職と所長職を分離し、研究者の人事権は所長が、所長の人事権は理事長が握る。所長の給料は年俸制。(プロ野球球団のオーナーと監督みたいな関係??)

要は、研究所に自由責任を与えなさいということなんだろうと思います。これって、青木さんがスタンフォードなどで実体験された"American way"なんでしょうけれど、そのせいもあってか、実際、この国では、アカデミックな人たち(特に社会科学分野)が、しっかりと実社会にコミットしていている印象を受けます。特に、経済問題については、政治家(もちろん、大統領も含めて)が、経済学者から公式・非公式のアドバイスをもらうのは当然のこととなっていますし、見ている限り、そういったときの経済学者が、官側から何らかの影響を受けているようにも見えません。彼らは、基本的に自分の頭で考えてモノを言っているように見えます。
  
一概に何でもかんでもアメリカがいいとはいいませんが、アカデミックが自律的で、かつ積極的にコミットするというこの点は、日本と比べてアメリカが大きく秀でている点だと思います。そしてそれは、青木さんも書かれていたように、アカデミックだけの責任ではなく、むしろ「官学の関係」の賜物である、というのも事実。ちょっと議論が大きくなってしまいましたが、この点を踏まえて、日本の国立の研究所が、これからどうあるべきなのか、自分なりにもう少し考えてみたいと思います。 
my home, Syracuse, Jan 16, 26:09

2 comments:

Anonymous said...

Bayaさんと嗜好だぶりますね、これも日本に帰ったら読む予定の本です。

スタンフォードを辞めて、残りの人生をかけてこられた青木先生の辞任は当時、業界でもかなり話題になりました。

青木所長の頃の経済産業研究所は本当にイキがよかったですね、おもしろい研究をバンバンやっていました。

ご退任後は、財務総研とさほど変わらず、冴えない研究所に逆戻り。

財界が出資したシンクタンクも何をやっているのか聞こえてきません。とにかく、お金が必要なので、ベンチャー的な組織には期待できません。日本にBrookingsができる日は、しばらくこないのでしょう。

髙林 祐也 said...

マクロ的に(決定論的に?)言うと、日本における政府の意思決定の影響は、アメリカのそれに比べて小さい、ということなのかなぁとも思います。それゆえ、シンクタンクにお金をかけるに値しない→財界からお金が集まらない→一向にまともなシンクタンクが育たない。「政府の意思決定の影響」の大小は、必ずしも「政府の(GDP比)予算規模」の大小とは比例しないと思うので。
政府系シンクタンクは、もともとその位置づけがよくわからんですよね。Scientificなところはまだしも、社会科学系のところは特に中途半端というか、なんというか…。