Saturday, May 8, 2010

ready-to-use knowledge

帰国の日が近付くにつれ、「すぐに役立つ」知識に対する欲求が高まってきている気がする。何が「すぐに役立つ」知識かは、与えられる仕事次第で違ってくるので、最終的には、東京に戻ってみないとその範囲は特定できないが、よほど特殊な部署に配属されでもしない限り、理論的な経済学が、そのままの形で「すぐに役立つ」知識になり得ないことは明らか。政策づくりを理論的に支える縁の下の力持ちとして重要な役割を果たすにしても、文化包丁的にそれ一本で何から何まで料理してしまおうとするには無理がある。

その点、「すぐに役立つ」知識として、もっともその目的に適っているのは、何と言っても、過去のケースからの教訓であろう。成功例であれ、失敗例であれ、過去の同様の取組事例を知っていれば、それだけでも政策立案の際には「すぐに役に立つ」し、そういった事例をいくつか集めて、そこから共通する傾向を引き出せれば更に有効な情報となり得る。経営学の世界では、大々的に行われている研究手法である。

なまじっか抽象化された理論(経済学、政治学、etc.)の方が高度に発展し過ぎてしまっているせいか、政策の世界では、経営の世界ほどにはケースタディ的研究手法が発展していないように思う。あるいは、この世界では、ケーススタディが、正統派の学術研究よりも一段低いものと見なされている結果――まぁ、それ自体は別にそれでもいいんだけど――、国をまたいでの知見の収集・体系化がそれほど進んでいないということなのかなぁとも思う。

もっとも、政策の世界でも例外はあって、金融政策や、military operationも含めた防衛政策の世界では、理論的な研究と併せて、ケーススタディ的な議論も盛んに行われているように思う。一方で、例えば僕の専門領域である環境政策について言えば、他国の事例を横断的に学ぼうとしたときには、いったいどこにアクセスすればいいのか、といったところからして迷ってしまう。僕の勉強が足りていないだけなのかもしれないけれど。
たとえば、環境を学部名に冠したスクールなどでにいけば、そういったケーススタディを横断的・体系的に教えていたりもするのだろうか。 この辺りにアクセスすれば、それなりの情報が取れる、といったところがあるのであれば、押さえておきたいようにも思う。
Chicago, May 8, 11:07 CT

2 comments:

outernationjp said...

政策系のディシプリンよりも、法律やMBA関係のディシプリンの場合、考え方自体に加えて実際に学んだツール(判例や規則、手続き)を使っているという作業が相対的に重要なのでケーススタディが広く使われているというところなのではないでしょうか。

規則や補助金制度等の事例を単独でケースとしてまとめてもあまり教材としての強みが発揮されないような印象があります(導入過程における混乱をどうコントロールしたか、あるいは「Aという問題があります、打ち手を考えろ」というレベルならケースになりますが)。

公共政策大学院の場合、問題分析と、実施した政策の効果の評価に社会科学のツールを使うという部分が「売り」なんでしょうから。

ちなみに政策の事例(規制や補助金等々)であれば、国際機関(OECDや世界銀行、国連系諸機関)やシンクタンク(NBER等あるいは個別分野に特化した団体)がworking paper として誰かがまとめていますし、中には政策系のacademic journal にも掲載されているものもあります。

環境スクールといった個別分野に特化した大学院でもカバーしないといけない範囲はそれなりに広く、一つの授業で取り上げることが出来る内容も制限があるので、つまるところ先生とのコネクションを如何に築いて情報を引っ張ってこれるかが大事なんだと思います。

髙林 祐也 said...

返信遅くなりましたが、コメント、ありがとうございます。いただいたコメントを読んでみて気付いたのですが、「ケーススタディ」と「政策事例」を混同していたように思います。

それらを分けて考えるならば、僕が知りたかったのは「政策事例」の方。その点を明確にしたうえで、文字媒体なり、先生とのコネクションなり、政策事例を「検索」できるシステムを自分の中で作っておくのが重要なのかなと思います。

毎度ながら、示唆に富むコメント、ありがとうございます。