Thursday, December 18, 2008

Trade Barriers as Climate Change Policy

「奥さんが来るまでに痩せるぞ」作戦は、時間的に間に合わないことが確実になったので(最初から無理だったんじゃないのかという声も。というかそういう声しか聞こえてきません。)、「散髪とコンタクトでごまかすぞ」作戦に変更。今日は、アメリカではじめてのコンタクト購入も無事入済ませ、散髪も、美容院でそれなりにいい感じに切ってもらえたので、たぶん8割方はごまかせるんじゃないかと思っています(根拠不明)。
 
さて、だいぶ遅くなりましたが、今日は"Energy, Environment, and Resource Policy"の期末レポートで調べた内容を簡単に御紹介します。

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レポートで扱ったテーマは、温暖化対策政策の一環としての輸入障壁措置(trade measures)。ザックリ言うと、「自国と同レベルかそれ以上の温暖化対策をとっていない国からの輸入品には、税関で何らかの負担を課す」というもの。実際に立法化された事例はまだないが、欧・米でその導入に向けた動きがある(米:今春、国会に提出された12本の温暖化対策法案のうち、Lieberman-Warner法案を含む約半数が、このtrade measuresを含んでいる。 欧:EU-ETSフェーズⅢの案に抽象的ながらtrade measuresに関する記述がある。)。
 
その導入に当たって最大の懸念となると見られているのは、WTOの定める自由貿易ルールとの衝突。WTOは、締約国が「人間、動物又は植物の生命・健康を守るのに必要な場合」や「枯渇性天然資源(exhaustible natural resources)の保全に関係する場合で、(輸入国)国内における生産又は消費に関する規制と連動して行われる場合」などに、輸入障壁を設けることを認めている(GATT第20条)が、その適用除外規定が、"Process and Production Methods (PPMs)"(製造工程及び製造方法)にまで及ぶか否か(つまり、製品そのものが環境破壊を引き起こすわけではないが、その製造段階において環境破壊を引き起こしているようなケースもGATT第20条の対象となりうるか否か)については、論争がある。
 
これについては、Jeffrey Frankelというクリントン政権の下で大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers;略称CEA)のメンバーを務めた著名な国際マクロ経済学者(現在はハーバードのケネディスクールに在籍)が、この10月に"Global Environmental Policy and Global Trade Policy"という論文を発表している(この論文自体は、経済学というより国際法的な視点からの分析。)。その要旨は、「エビ-カメ事件(the shrimp-turtle case. 詳細はこちらを)などの前例に照らして考えると、trade measuresは、うまく設計されていさえすれば、理論上はWTOルールに整合しうる(Trade measures, if well designed, could in theory be WTO-compatible)」というもの。
   
ではそもそも、trade measuresのメリットとは何なのか。これについて同教授は、competitivenessleakageという二つの概念を挙げて説明している。いずれも、京都議定書に代表される既存の多国間交渉をベースにした取組(同教授はmulti-lateral approachと総称。)の欠点として挙げられているものだが、前者は、国際間で取組の強度に差がつくことにより、より厳格な規制を敷いた国が、経済的競争力を失ってしまうというもの。当然のことながら、これは主に(輸出)産業界が懸念している点。一方、後者は、同じく取組の強度に差がつくことによって、より規制の強い国から、より規制の弱い国への汚染の漏出(leakage)が起こり、全世界で見れば、何もしない状態(buisiness-as-usual)よりも悪くなり得てしまうというもの。これは、①高炭素排出型の工場の移転、②高規制国における高炭素型燃料の需要減退→高炭素型燃料の価格下落→低規制国における高炭素型燃料使用量の増大 という2経路を通じて起こるとされる。こちらは、主に環境保護派によって懸念されている点。trade measuresは、これら二つの問題を克服するのに有用であるというのがFrankel教授の意見である。
 
以下は、Frankel教授の論文を離れ、僕自身の考えであるが、competitiveness問題に関する輸出産業界の懸念を払しょくし、同時に、安い輸入品の脅威にさらされている国内向け製造業者の後押しを得られるという意味では、trade measuresは、国内意思決定プロセスにおいて、multi-lateral approachに比べて、はるかに合意を得やすいのではないだろうか。また、国際交渉という極めて煩瑣なプロセスを省略できるというのも大きなメリットだ。一見、全世界で取り組まないことによるデメリットが大きいようにも思われるが、もし仮に、EU・米国(北米)・日本の3局が同様の規制を敷いたとすれば、世界のマーケットのかなりの部分を押さえることが可能であり、このことによるデメリットはそれほど大きくはならない(この点については、Frankel教授も指摘している。)。
 
しかし、もし仮に、WTOルールとの抵触問題がクリアされたとしても、深刻なデメリットは他にもあるのではないかと思う。
 
一つには、たとえ法的に問題がなかったとしても、特定の国に対して、実際にこの措置を発動するとなると、国際政治上かなりの緊張を伴うのではないかという点。何せ、シロクロの判断は、輸入国によって行われるわけである。たとえ何らかの独立機関にその判断を委ねるとしても、政治から完全に自由になることはできないだろうし、またどのような方法を取ったとしても、輸出国側を完全に納得させることは難しいだろう。
 
また、実はこれが一番本質的な問題だと思うのだが、有体に言えば、この措置は、先進国が自国内の市場から、発展途上国の製品を占め出すための道具として使えてしまう。あるいは、仮にそのような意図がまったくなかったとしても、結果的にそのような結果になり得てしまう。つまり、やや極端に言えば、「温暖化対策を推進するために途上国の経済発展の機会を制限する」という構図が浮かび上がってくる。ただしこれは、trede measuresに固有の問題ではなく、あらゆる手法による温暖化対策が、本質的な部分で抱えている問題だと思うが…。  
 
これら二つのデメリットは、WTO問題と同じか、考え様によってはそれ以上に深刻なものであるが、だからと言って、trade measuresという手法に未来はないかというとそんなことはないと思う。デメリットもあるとはいえ、メリットは確かに大きいし、multi-lateral approachの難航ぶりは周知のとおり。すぐに立法化されることはないにしても、ひとつの有力なオプションとして提示され続けるのではないだろうか。
 
来年の国会、アメリカでは、排出量取引法案の成立が一つの焦点になると思われるが、その法案で、trade measuresがどのように扱われるかについても、watchしていきたい。
my home, Syracuse, Dec. 18, 26:00

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